<見せろ!魂・和歌山東の軌跡>/下 強豪に勝利し勢い 気迫と泥臭い攻撃で「ミラクル」 /和歌山
人生が変わるような1勝――。此上平羅主将(2年)は振り返った。昨秋の近畿地区大会準々決勝、和歌山東は京都国際との接戦をものにした。重圧のかかる展開の中、チームは無失策。諦めない、気持ちのこもった粘りの「魂の野球」が根付き、真価を発揮した。 和歌山東の近畿地区大会出場は4回目。過去はいずれも初戦敗退だった。今回は違った。八幡商(滋賀)戦に3-1で勝利。米原寿秀監督(47)は「県予選で智弁和歌山に勝った雰囲気のまま試合に入れたのが良かった。どんなプレーをし、試合のどこを乗り切れば勝ちにつなげられるか学んだ」と見た。 次戦は前回大会、初戦で敗れた京都国際との再戦になった。昨夏の甲子園ベスト4で、全国屈指の左腕・森下瑠大投手(2年)らがメンバーに残る注目チームだ。先発は左腕の田村拓翔投手(2年)。「相手打線が左投手に弱い」と分析しての起用だ。田村投手が、まずはバットで見せた。初回2死満塁、2点適時打を放ち先制する。その裏、すぐに1点を返されたが、ずるずるとは失点しない。「甲子園でプレーしたい。絶対に勝ちたい」と力投。聖地を視界にとらえた選手たちは縮こまるのではなく、気迫をみなぎらせていた。 五回途中から後を継いだエース・麻田一誠投手(2年)も安定した投球を披露した。最終回、先頭打者に本塁打を打たれて1点差に迫られ、次の打者にも安打を許し、相手に流れを渡したかに思われた。しかし、打たせて取る投球が真骨頂のエースが、ここぞの場面、次打者を三振でねじ伏せた。好守も光った。初回には此上主将が横っ跳びの好捕を見せ、最後の打者の強烈な遊ゴロは抜ければ同点という場面だったが、尾花直生選手(2年)が落ち着いてさばいた。 この試合、和歌山東を象徴する「泥臭い攻撃」があった。五回1死三塁、米原監督が打者の山田健吾選手(2年)に出した指示は「ゴロを打て」。狙って犠飛は難しい。こうした場面を想定し、練習に取り組んできた。山田選手は「意識せず、いつも通りのバッティングをした」と振り返る。結果は指示通りの遊ゴロ。三走の橋本晃成選手(2年)は打ったと同時に本塁へ突入して追加点を挙げ、これが最後まで勝敗を分けた1点となった。 気迫と冷静な計算がかみ合い、勢いに乗ったチームは準決勝、金光大阪にはコールド勝ち。「しっかりと振れた」と振り返る森岡颯太選手(2年)に一発も飛び出した。決勝こそ敗れたが、大会初勝利から一気に準優勝まで駆け上がった。 「ミラクル」と米原監督が照れ笑いする結果。しかし、こう言葉を続けた。「選手たちは『やればできる』と示してくれた。生まれ持ったよさを引き出すことが大切。大人が子どもの可能性にストップをかけてはいけない」 「何もない」ところからスタートし、歴史を塗り替え続けたチームは、甲子園でも可能性を追い続ける。【橋本陵汰】