プーチン、ようやく戦争に本気で向き合う~これはプリゴジンの遺言だったのか、腐敗一掃、戦時体制整備、そして中国抱き込み
そしてプーチンは中国に飛んだ
この人事が終わった直後の5月16,17日にプーチンがいち早く飛んだのが中国である。中国はロシアにとって、この長期戦を戦う上では絶対に欠かすことの出来ない重要なパートナーである。単にエネルギー資源を買ってくれていると言うだけでなく、それ以上に、半導体を含めた軍事転用できる民生品の最大の供給源なので、中国との関係維持というのも長期戦には欠かせない。 問題は、中国が引いているラインが、殺傷兵器は供与しない、しかし、軍事転用可能な民生品は供与するということである。さすがに米国は、このダブルユースの物資がロシアの軍需産業の生産力を支えていると言うことは認識しているので、昨年の12月、中国のいくつかの銀行に対して、二次制裁を発動した。そのため、ここ数ヵ月、ロシアと中国の貿易額は減ってきている。効果が出始めてはいる。 しかし、ロシア・中国というのはこれまでも何らかの制裁をかけられると、それに適合する形の抜け道を必ず作る。今回、制裁リストに載せられたのは米国に支店を持っている大手銀行だ。それは制裁の対象になり得る。ただし、米国と全くビジネスをやっていないローカルな銀行、ドルを使ったSWIFTでの決済ではない決済手段、などははっきり言って関係ない。なおかつ現地通貨で決済をするということをやれば、そこにいろいろなダミーを間に絡ませたりしたら捕捉されにくくなる。 ロシアも中国も、ルーブル、元での国際決済のシステムは既に持っている。それを使って、主に人民元でということになる。もちろんコストも手間も余計にかかるが決済は十分可能である。直近のフィナンシャル・タイムズでは、ロシアの中央銀行総裁の元アドバイザーが、今回のプーチンの訪中で、米国の二次制裁の回避策が議論されるだろうと指摘している。 習近平からすると、特に制裁の問題で米国に屈したくはない。いつ自分たちが対象になるか解らないからだ。中長期的には、ロシアをある意味、実験台に使って、西側とは一線を画した、中国主導の経済圏、決済システムを構築しようとしており、現在そのプロセスにあるとみる。もちろん、SWIFTやユーロクリアに比べたら、まだまだ使い勝手の良くないシステムではある。しかし最近、この決済システムを使って、バングラディシュがロシアから原子力関連機器を買ったという事例も出始めている。 大きな流れとしてBRICSでこのような塊をつくろうとしている。皆、グローバルサウスの国々も、米国と喧嘩するつもりはないが、オルタナティブとしての手段を持っていたほうがいい、と思っている。中国の狙いは、ロシアを助けるという以上に、米国に対する経済的なオルタナティブをつくるというところにある。 ---------- そして、ロシアが改めて体制を整えたとき、ウクライナはどこまで戦えるのか。もし崩壊が起きるとすれば何が起きるのか、「欧州が覚悟する地上軍ウクライナ派遣とプーチン核使用のリアリティー~この戦争はもはやロシアvs.欧米だ」で恐怖のエスカレートの構図を解説する。 ----------
畔蒜 泰助(笹川平和財団主任研究員)