プーチン、ようやく戦争に本気で向き合う~これはプリゴジンの遺言だったのか、腐敗一掃、戦時体制整備、そして中国抱き込み
すべては長期戦への布石
今回、プーチン大統領は信任の厚い経済学者のベローソフ第一副首相を国防相につけて、今ある問題を解決しようとしている。戦争以前では容認できていたことも、戦争が始まって、ここまで問題が出てくるとさすがに容認できない、という判断だったのだと思う。だからベローソフの役割というのは、まず国防省の汚職問題の一掃、そして軍事予算の適切な執行と言うことになる。 軍事予算は増えているとはいえ、永遠に増し続けることが出来るわけではない。国家予算における国防費の割合は6.7%にまで達している。ソ連時代の80年代半ばには7.4%だったことに比べるとまだそこまでに達していないが、大統領府のペスコフ報道官は「それでも注意しなければならない水準だ」と発言していた。 すべて長期戦への布石だ。遅ればせながら、ロシアも西側との何年になるかも解らない戦争に本気になり始めたということだ。ロシアはこの戦争をウクライナとの戦いとは思っていない。ウクライナは西側の支援がなければ戦争を続けられないことは明白なのだから。
シンボリックな人事
プリゴジンの反乱で表面化した問題の延長線上で、今回の人事が行われていると言うことの傍証といえるのが、トゥーラ州知事のアレクセイ・デューミンの処遇だ。彼は一時、プーチン後継者の有力候補と言われた人物。2016年以降、トゥーラ州の知事(当初は知事代行)を務めている。なかなか中央政界に出てくることはなかったが、プーチンは今回、大統領に正式就任した5月7日の2日前に、デューミンに会っている。 これがなぜ注目かというと、実は2016年3月に彼が知事代行になる前、彼は国防次官であり、彼の後任にショイグが選任したのが、今回逮捕されたイワノフだったからだ。そもそも、デューミンの州知事への転任をプーチンにアドバイスしたのもショイグだった。デューミンはショイグらの問題とは、明らかに一線を画した立場にある。 もう一つは、プリゴジンがショイグ、ゲラシモフを猛烈に批判していたときに、代わりにそのポストに就けようと考えていたのがデューミン、スラヴィキンだったといわれることだ。だから、今回、当初デューミンがショイグの後任になるのではないかという噂がかなり流れていた。さすがにそれはやらなかったが、今回、デュ-ミンは大統領府補佐官に任命された。 ショイグ退任のタイミングで、デューミンが中央政界、しかもプーチンの近くに復帰をするというのは非常にシンボリックで、この動きの根底にあるのは、プリゴジンの反乱で表出した問題の解決に、やっとプーチンが本格的に着手したことだ。プーチンからすれば、大統領選挙を終えた政治的な安定、ウクライナへの米国の援助が途絶えた戦況の優勢など、今、腐敗問題に手を付けるのに、いい時期だといえる。 今回の一連の人事では、明確に、戦時経済体制、特に軍需産業を軸にしたロシアの経済政策を打ち出した。ベローソフが第一副首相の時に、既にそれは始まっていたが、さらに彼自身が国防相になった。そして、後任の第一副首相になったのはマントゥーロフ産業貿易相、彼はまさにロステフという軍事企業の一大複合体のトップで、プーチンの東ドイツ時代のKGBの同僚だったチュメゾフの子飼いだった人物だ。 この経済の軍需産業シフトは長期戦を前提とした兵器弾薬の安定的な供給体制をつくることが主眼になっている。ちなみにデューミンがクレムリンでやる担務の一つが軍需産業だ。トゥーラ州というのは軍需産業が盛んだ。デューミン自身も、長い間、トゥーラで軍需産業に関わっていた。ようやく、まともな戦時体制が、人事も含めて整いつつある。