工藤夕貴「俳優ではなく歌手になりたかった」有名人の娘であることを隠して12歳でデビュー 味わった挫折と葛藤の日々
当然、学校との両立ができない状態で。家が八王子だったため、現場との距離的な問題もあり、学校に行ってから仕事に行くというのが難しかったんですよね。当時は母が送り迎えをしてくれていたんですけど、映画『逆噴射家族』の頃とかは現場に入ってしまうと、朝早くから夜遅くまで撮影があり、結局1か月半くらい学校には行けませんでした。 当時は業界も仕事優先が当たり前のような感じで「子役はちゃんと学校に行かせないといけない」という感覚が薄い時代だったと思います。
── 子役の方たちにとって、過酷な現場だったんですね。 工藤さん:そうですね。女優さんと控室が一緒だったりすると子役は控室に入れてもらえない、なんて時もありました。自分の控室もなくてマネージャーさんもまだついてなかったので、居場所がないまま衣装で待機するわけですけど、それが水着だったり。しかも冬だったので、雪が積もるなか冷たい風が吹き込むところで機材用の養生に使うような毛布を借りて床に敷いてそこで待ったこともあったなぁ。40年くらい前の話ですけどね。
撮影でNGを出したりすると食堂の食券がもらえないなんてこともありました。でも、そんなとても悔しい思いをしたことで、そういう思いがバネになって「いつか名前が売れたらこんな扱いされない人になってやるんだ」と思って、仕事を頑張ろうという気持ちがいっそう高まりましたね。 PROFILE 工藤夕貴さん 1971年生まれ。東京都出身。1983年芸能界デビュー。映画『逆噴射家族』(1984)でヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。アメリカ映画『ミステリートレイン』(1989)出演以降、海外作品でも活躍。『戦争と青春』(1991)では日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。主演したハリウッド映画『ヒマラヤ杉に降る雪』(1999)ではアカデミー賞など多くの賞にノミネートされた。主な出演作に『SAYURI』(2005)『ラッシュアワー3』(2007)など。帰国後は静岡県に広大な土地を購入し俳優業の傍ら、無肥料、無農薬の自然農法で農業を行っている。昨年は父である歌手、故・井沢八郎の代表曲「あゝ上野駅」を娘として歌い継ぐべくカバー。感銘を受けた五木ひろしがアンサーソングとなる「父さんみてますか」で作曲に関わり、カバー曲と併せて収録したCDをリリース。演歌歌手に初挑戦し新たな一面も話題となっている。 取材・文/加藤文惠 画像提供/工藤夕貴
加藤文惠