「ほとんど苦しかった」34歳ベテランスイマー・入江陵介が引退を決断した瞬間 18年背負い続けたもの、パリへつないだ希望
◆「よく続けてこられたなというのが本音」
しかし、世界大会のメダルにはその後も届かないままだった。 北島をはじめとする先輩たちが代表を去っていくなか、いつしか男子の最年長に。それでも入江は、30歳を越えてもなお、厳しい練習に耐え、戦い続けた。 松岡:「水泳人生、めちゃくちゃ苦しかったんじゃないですか?」 入江:「そうですね、ほとんど苦しかったなとは思いますね。嬉しい瞬間はほとんどなくて、年に1回あるかないか。ない年のほうが多かったですし、ほとんどはしんどかったです。よく続けてこられたなというのが本音ですね」 松岡:「僕が入江さんのように金メダルを狙うような選手だとしたら、続けられません。だって金メダルを獲るために泳いでいるのに、なかなか結果が出ない。どうして泳ぎ続けられたんですか?」 入江:「もちろん金メダルという目標をぶらさずにやっていた部分もありますが、何より楽しかったと思うんですよ、競泳が」 松岡:「楽しかった?」 入江:「試合や練習は本当にしんどいですけど、日本代表にいるときが楽しかった。家みたいなもので、家族みたいな感じなので、自分がそこにいるのが当たり前になっていたんです。高校2年生から今までずっと。自分自身の一番の居場所だったから、家に帰ってまた同じ1年を代表として過ごすみたいな」
日本代表は、「家」であり「家族」。 だからこそ、長年過ごしてきた入江には、“そこで大切にすべきこと”を守る使命があった。 入江:「メダルを獲ることだけが役割じゃないと思っていて、自分自身メダルを獲ること以外でどう貢献できるかはずっと気を遣ってきました」 松岡:「戦う舞台での過程が大事なんだと、家(日本代表)の中でみんなに伝えていったんですね。彼らに何を感じ取ってほしいと思っていましたか?」 入江:「先輩方がどんどん引退されるなかで、日本代表の雰囲気やチームとして戦う気持ち、個人がメダルを目指すのではなく、チームで何個獲るんだという気持ちなど歴代受け継いできたものがありました。自分自身そういうものを伝えてきたつもりではありますし、感じ取ってもらえていたのかなとは思います」