東大博士課程での研究生活から、小説家に転身した直木賞作家・小川哲さん。

2015年のデビュー以来、話題作を連発している直木賞作家・小川哲さん。 小川さんは、膨大な史実から劇的なストーリーを紡いだ『地図と拳』や、クイズ番組の回答者の思考回路を詳細に描写した『君のクイズ』など、ジャンルを超えた幅広い作品で人気を博している。 【全画像をみる】東大博士課程を辞め作家に…直木賞・小川哲の読書術「小説で思考のハードウェアを更新せよ」 東京大学の博士課程に在籍し数学者アラン・チューリングを研究していたという過去を持つ小川さんだが、これまでどんな読書をしてきたのか。また仕事に追われがちな会社員が小説を読む意味はどこにあるのか。 日本でいま最も注目を集める作家の一人である小川さんに、「読書」について聞いた。 小川哲…1986年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年、『ユートロニカのこちら側』でハヤカワＳＦコンテスト大賞を受賞しデビュー。『ゲームの王国』で第山本周五郎賞、日本SF大賞を受賞。2023年、『地図と拳』で直木賞。『君のクイズ』で日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞。2024年10月に1年ぶりとなる新刊『スメラミシング』を発売。

小説が更新する「思考の枠組み」

──『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という書籍が話題になりました。忙しい社会人にとって、小説など本を読むことの価値はどこにあると思いますか？ 読書を情報収集だと考えている人は、「ソフトウェア」を集めるために本を読むと思います。 ソフトウェアを充実させるためにはビジネス本だったり、ノンフィクションだったりを読んだり、本でなくてもウェブで情報を知ることもできます。 一方で小説を読むことは、「ハードウェア」の設計自体を変えることだと思います。 情報をどう使うか、どうして情報を集めたいのか、集めた情報で何になりたいのか──。それはハードウェアの問題です。 ハードウェアを更新するのは、フィクションの力の一つだと思っています。いい小説を読んだり、いい映画を見たりすると、思考の枠組み自体が更新されます。 逆にハードウェアのスペックが低いまま、いろんなソフトウェアを入れていっても、結局、パソコンが動かないという事態になってしまうと思います。