"7歳差夫婦"の申請忘れは280万円の損…夫(65)と妻(58)が見落としていた「申請しないともらえない年金」
■活用すれば“生活に余裕が生まれる”と伝えた そこで筆者はFPの視点から、剛さんには以下の2つを伝えました。 ①年金の受取総額は繰り下げた方が大きくなるが、加給年金を申請すれば7年間で「約280万円」が手に入る。そうすれば現在の生活に余裕も生まれる。7年後から明美さんも年金の受給を始めれば、世帯での総額はさらに増えていく。 ②明美さんは夫婦の時間を大切にしたいと思っている。年齢差がある夫婦なので、加給年金を申請して受け取れる“余裕”を活用して、体が丈夫で健康なうちに旅行などを楽しむのもいいのではないか。 繰り下げ受給が始まるまで生活費を稼ぐために無理して働き、いざ受給が始まったら体が動けなくなっていては、人生として損ではないか、ということも伝えたかったのです。 また、意外にも思われる方がいるかもしれませんが、2階建てとなっている年金制度は、国民年金部分の「老齢基礎年金」と、「老齢厚生年金」、それぞれ別々に繰り下げることもできます。 ですので、最終的には次のように提案しました。 ---------- ①「厚生年金」は繰り下げずに加給年金と共に65歳から受取る。そうすれば今後どこかで働くとしても、ペースを落とせる。 ②「基礎年金」のみを剛さんが72歳(妻が65歳)になるまで繰り下げ、年金額を増やすことも可能である 「1年間でもらえる年金額」 これからの7年間(剛さん65歳~72歳) ▼剛さん 約120万円(厚生年金)+約40万円(加給年金)=160万円 ▼明美さん なし 世帯合計 160万円 7年後から(剛さんが72歳以降) ▼剛さん 約120万円(厚生年金)+約127万円(基礎年金58.8%増)=247万円 ▼明美さん 約9万円(厚生年金)+約80万円(基礎年金)=89万円(年間) 世帯合計 336万円 ---------- ただし、これらはあくまでも「加給年金を自分でちゃんと申請したら」という前提での提案です。もし何も申請していなければ、加給年金は全くありませんので、65歳からもらえるのは厚生年金の年間で120万円のみ、になってしまいます。 大事なことですので改めて記しますが、加給年金は「自分で申請しなければもらえないお金」であることには注意が必要です。 ■受取り方に迷っても「独断」「人任せ」はNG その後、しばらくして剛さんから聞いた話では、筆者からの提案の通り進めていただいたようでした。まずは65歳から「厚生年金+加給年金」を受け取り、「基礎年金のみを妻が65歳になるまで繰り下げる」ことにしたそうです。 剛さんはこうも話していました。 「繰り下げをしている期間は、頑張って働こうと思ってはいたものの、これまでのようには身体が効かないのではと少し不安もありました。でもとりあえず7年間は月13万円くらい年金が入ると思うと、気持ちがずいぶんと楽になり今は無理なく働いています。 また今回あらためて今後のことを妻と話したら、私のことを気遣って妻も少し働いてくれる事になったんです。パートですが、家計にもゆとりが生まれました」 森田さんご夫婦は、加給年金を活用したことで、“損することなく”少し余裕のある生活を送れるようになりました。今では「加給年金を原資に旅行の計画も立てている」とのことで、充実した老後にもつながったようです。 年金受給開始年齢の65歳に近づくと、どうしても年金の繰り下げか、繰り上げかということに視点が向きがちです。「加給年金」の案内が送られてくることはないだけに、そうなってしまうのも致し方ないことなのかもしれません。 ただ、人生100年時代と言われる今、65歳で「老後」が始まっても100歳までは25年もあります。 老後の生活を支える年金は、複雑な制度でわかりづらい点もありますが、決して人任せにせず、自分からちゃんと調べたり専門家に相談したりして、受取り方など上手に選択することが大事です。 「損しない有意義な老後生活」を送っていただくためのヒントとなることを願っています。 ---------- 山中 伸枝(やまなか・のぶえ) ファイナンシャルプランナー アセット・アドバンテージ代表取締役。心とお財布を幸せにする専門家、ファイナンシャルプランナー(CFP)、確定拠出年金相談ねっと代表、一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務。2002年にファイナンシャルプランナー(FP)として独立。著書に、『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)、『ど素人が始めるiDeCoの本』(翔泳社)などがある。 ----------
ファイナンシャルプランナー 山中 伸枝