「こいつら強かったな」なぜ中大は箱根駅伝で“想定の上限より上”の2位に? “ピクニックラン”狙う青学大・原監督に藤原監督の不敵「1年生、強いですよ」
予選会、全日本と不調続き…低かった前評判
チームは前回大会の後、昨年10月19日の箱根駅伝予選会を6位通過。11月の全日本大学駅伝は12位に終わり、夏以降、不調が続いた吉居も7区14位に沈んだ。 「全日本での失敗で自分の気持ちの弱さ、考えの甘さに気づけました」 この日、後に続く選手もエースの復調に触発された。2区の溜池一太(3年)が手堅く走ると、3区の本間颯(2年)は区間賞でリードを拡大。「1、2区の先輩がいい流れを作ってくれたので、初めての箱根駅伝でしたが楽しく走れました」と感謝した。4区の白川陽大(3年)も続き、出場校のなかで上位10人の1万m平均タイムが最速を誇る選手たちは勢いに乗った。 藤原は選手たちの躍動に目を細める。 「前回は絶対に優勝しようとやってきましたが1回崩れると、立て直すのに時間がかかると思っていました。1年後、前のチームの分まで強かったことを、まずは片道ですが証明できたことは非常によかったです」 1年前。屈辱を晴らすための挑戦は箱根駅伝翌日の1月4日から始まった。手書きで紙に書く健康チェックシートの提出を義務づけた。これまではデジタルで体重や心拍数などのデータを管理していたが、記入漏れがでるなど、おざなりになっていた。 毎朝、測定する血圧は体調を把握するための目安とした。通常の数値と大きくズレが出始めたら、体調の異変を示すシグナルとしてサプリメントを摂った。前回大会で体調不良者が続出するきっかけとなった大会直前の合宿は中止された。恒例であっても慣例にとらわれず、スキを見せなかった。
規律の緩みも注意「24時間を陸上中心に」
体だけでなく、心も整える。 藤原はある時、食事中にスマートフォンを触っている選手を見つけた。4年生を呼んで、こう諭したのだという。 「緩んだ空気になっている。だから駅伝で最後、大事なところの詰めが甘く、どんどん遅れていってしまうんだよ。同じ人間がやることなんだから、24時間を陸上中心にやっていかないといけない」 食事中のスマホ禁止は本来、選手たちが決めたルールだった。走ることとは関係ない。だが、日常生活から背筋を正す大切さを指摘したのだ。 常勝チームの監督は二兎を追って、組織を強くする。目先の勝利を求めながら、選手を育てるのはチームスポーツにとって永遠の課題である。 4月。藤原は入学したばかりの1年生に伝えた。 「申し訳ないけど、今年は予選会からスタートになるから、まずは10月に向けて距離を踏むよ」 箱根駅伝に出場するためには、10月の予選会を突破しなければならない。藤原が描いた再建の方針は総合力の底上げだった。新1年生も例外ではなく、5月に合宿を組むのは珍しいことだった。 体をハードに追い込むポイント練習以外の1回のジョグの平均距離も12kmから15kmに変更したという。全体的な走り込みの量を増やし、選手たちにはこう言い続けた。 「去年区間賞を取った選手を予選会に回すよりも、その選手がいなくても予選会を通過するチームにしないと、箱根は厳しいよ」 だが、秋に試練が訪れた。予選会の戦力として計算していた主力選手まで故障などで離脱。すると、当初、メンバーに入っていなかった吉居が藤原に直訴してきた。 「僕、準備はできていますよ」 主力を出し惜しみして予選会で敗退すれば批判は免れない。だが、藤原は信念を曲げなかった。 「お前抜きでも予選会を通れるようにしておかないと箱根は戦えないから」 予選会で起用した1年生は5人。大胆な用兵は将来を見据えた覚悟の表れだった。 「夏の練習が非常に良かったので、予選会を通らないことはないだろう、若手に経験を積ませた方が後々のチームにはいい、という判断があったのも確かです。吉居が4年生になった時に優勝を狙えるチームにしないといけないと考えていますから」 雌伏の時を経て、3強の国学院大、駒大に先着した。その手ごたえは惜しくも逆転優勝を許した青学大の強さについて聞いた時に滲み出た。 「若林君、あっぱれです」 そう脱帽した後、こう続けた。 「今年の4年生はすごくスカウティングがうまくいった世代でしたし、ずっと勝ちパターンを持ってらっしゃる。原監督の円熟味を帯びた指導が定着して、強いチームになっている。でも、我々もこれからは十分挑んでいけるし、来年、我々は勝負の年だと思っていますので、来年は絶対に勝ちたい。というか、明日、勝たないといけない」
「1年生、強いですよ」…藤原監督の不敵
そして、1分47秒差の2位でスタートする3日の復路について問われると不敵に笑った。 「いまの1年生、強いですよ。明日も2、3人使うことになると思う。見ていただければわかります。面白いと思います」 春に蒔いた種は復路でどんな花を咲かせるのだろうか。名門校の意地が光る1日になった。
(「箱根駅伝PRESS」酒井俊作 = 文)
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