【連載】言の葉クローバー/高木祥太(BREIMEN) 心に深く刺さった『教誨師』
心を揺さぶられたり、座右の銘となっている漫画、映画、小説などの1フレーズが誰しもあるはず。自身の中で名言となっている言葉をもとに、その作品について熱く語ってもらう連載コラム『言の葉クローバー』。今回は、4月3日リリースのアルバム『AVEANTIN』でメジャーデビューを果たしたBREIMENのフロントマン、高木祥太が登場。去年読んだ本の中で心に深く刺さった1冊に収められた言葉について語ってもらいました。
----------------------------------- “赦し”は、人間の反省や更生を促す特効薬のひとつなのかもしれない 書籍『教誨師』 -----------------------------------
“赦し”ということの大事さ
教誨師(きょうかいし)という、死刑囚が死刑執行されるまでの間に悔い改めることを促す、そういう仕事を長年やっている浄土真宗の僧侶の渡邉普相さんと著者の堀川恵子さんとの対話集といった形の本の中に出てきたのが、この言葉で。死刑囚という、すでに死が決まっている人間とつねに対峙してきた人だからなのか、ほかにもものすごくプリミティヴなことを言ってるんですよね。 この言葉の前に渡邉さんは「往々にして人は悪事を働いた時、相手から糾弾されたり批判されると思わず反発して心にもない言い訳をしたり、責任逃れをしがちである。しかし相手が自分を許していると知った時、そんな心の揺れが一瞬にして消え去ることがある」と言ってるんです。やっぱり死刑囚の人たちも、そんなすぐには対話をしてくれないらしく、いろんなアプローチで語りかけ続けることで、徐々に心の鎧を解いて話をしてくれるようになるらしいんです。それは反発する心を“赦し”てもらってるっていう感覚が芽生えたことで、鎧が解けるからなんじゃないかって渡邊さんは言ってて。そこから、今回挙げた言葉が出てくるというか。 でもこれって、教誨という場だけに限らず、人とコミュニケーションをする上での、ひとつの究極な考え方ではあるなと思うんです。人との対話の中で、ちょっと自分に非があるなって思った時って、身構えたり、心に鎧をまといがちじゃないですか。それで余計揉めたりして。でも相手や自分に対して“赦す”ということができれば、揉めたり、辛い状況にならないで済むというか。でもそれって簡単なようで、ものすごく難しいことで。僕自身はこれまでけっこう周りから許されてきたところもあるなって思ってるし、“赦し”ということの大事さを、この言葉から改めて思うようになりました。 この本を読む前に『モリのアサガオ』っていう漫画を読んでたんですね。これは死刑制度をテーマにした作品で、主人公は、死刑囚が収監される拘置所の刑務官なんですけど、実は拘置所の刑務官というのは死刑執行人でもあって。で、この漫画の話を母親にしたら、すごく読書家なんで、それなら、って勧められた本が『教誨師』だったんです。 インタビューでも言ったように、俺は、ひとつのことがあったら、もう片方のこっち側のことも考えてしまうタイプなんで、この本を読んで、ほんといろいろ考えさせられて。しかも368ページあって、内容が内容だから、ものすごく読むのに時間もかかったし、かなり疲れました(笑)。でも、去年読んだ本の中でものすごく記憶に残ってるし、心に深く刺さった1冊でもありますね。 『教誨師』 著:堀川恵子 半世紀にわたり、死刑囚と対話を重ね、死刑執行に立ち会い続けた教誨師・渡邉普相。「わしが死んでから世に出して下さいの」という約束のもと、初めて語られた死刑の現場とは? 死刑制度が持つ矛盾と苦しみを一身に背負って生きた僧侶の人生を通して、死刑の内実を描いた問題作! 第1回城山三郎賞受賞。2014年、初版発行。