アニメが好きすぎて「聖地移住」 批判や問題点もあるが、研究者の私はやっぱり勧めたいワケ
移住者は推定200~300人
近年、テレビ番組や新聞、インターネット記事など、メディアで取り上げられる機会が増えている「聖地移住」。聖地移住とはアニメや漫画、映画などの舞台となった「聖地」に移住することだ。聖地としてよく知られる 【画像】えっ…! これが60年前の「沼津駅」です(計10枚) ・静岡県沼津市(『ラブライブ!サンシャイン!!』の聖地) ・茨城県大洗町(『ガールズ&パンツァー』の聖地) への移住者は、すでにそれぞれ100人以上に上るといわれている。筆者(千葉郁太郎)は、複数の移住者を確認したいくつかの作品に基づき、日本全国に合計200から300人の移住者がいると推定している。しかし、これはまだ控えめな数字だろう。 筆者の本業は公認会計士だが、アニメの聖地巡礼が趣味だったことから、現在は大学などでの講義や講演、自費出版本や論文の執筆を行っている。 あるアニメの聖地巡礼をするなかで、移住した人に出会ったことをきっかけに、聖地移住に興味を持った。そして、当時まだファンの間でもあまり知られていなかった聖地移住の実態に迫るべく、2021年に『聖地移住~生きたい場所で生きる~』を刊行した。 その後、インタビューの過程で見えてきた課題に対応するため、2023年に続巻となる『聖地人~聖地巡礼のその先、聖地移住~』を刊行した。
地域移住と聖地移住の類似性
聖地巡礼もそうだが、聖地移住に関する研究はケーススタディーという手法のため、研究の ・協力が得られない ・紹介が難しい などの理由から、失敗事例を取り上げにくい。そのため、成功要因のなかに失敗要因が埋もれてしまい、誤った結論を導く「生存者バイアス」の問題が生じる。 そこで本稿では、メディアやインタビュー、エックス(旧ツイッター)などを通じて指摘された聖地移住に関する四つの問題点を挙げ、その答えを考えてみたい。まず、最初の質問である。 ●いわゆる「オタク」は地域社会に溶け込めるのか。地方移住の失敗例としてよく引き合いに出される、地域社会と移住者との摩擦はどうなのか。 まず忘れてほしくないのは、聖地移住といえども、地方移住の一種であるということだ。また、聖地といっても、首都圏近郊から地方都市、村落部まで幅広い。当然、後者になるにしたがって、地域住民との関係構築が重要になり、消防団などへの参加も欠かせないと聞く。聖地移住したある人は、 「自分はコミュ障(他人とのコミュニケーションが苦手な人)だから、人のいない田舎に行く」 という態度で移住するのは無理だといい切る。移住後も聖地巡礼で知り合った仲間とだけ付き合い、地域社会との関係をおろそかにしていると、その仲間が来なくなった途端に一気に孤立してしまう。