「高すぎる!」非難殺到のアメリカ将来戦闘機、シラけムード拭えず 対案で浮上の“廉価版”とは?
空軍参謀総長が軽ステルス機の構想を明らかに
しかし、2024年7月にロンドンで開催された国際航空宇宙軍司令官会議において、空軍参謀総長デイビッド・W・オルビン大将は、これとは対照的に安価な「軽ステルス機」の構想を明らかにしました。「重駆逐機」のイメージとは真逆のコンセプトです。 軽ステルス機構想は、F-35の縮小版のような単発機で、コストはF-35と同等かそれ以下に抑えられ、機体の耐久性よりも適応性を重視しています。 機体やハードウェアは必要最小限の消耗品として扱われ、ソフトウェアのアップデートや入れ替えを繰り返して優位性を維持します。パソコンの筐体に関係なくOSをアップデートし、必要に応じてサーバー容量やグラフィックボードを交換するようなイメージです。 さらに、各種センサーや電子戦装備、攻撃手段は無人機プラットフォームに分散させ、有人機はデータリンクのノードの役割のみを担うという徹底した軽装備化を目指しています。 NGADを推していた空軍にしては奇妙な構想ですが、2021年に前空軍参謀総長のチャールズ・Q・ブラウン・ジュニア大将が空軍の将来戦力構成の再検討でNGADの白紙撤回を示唆したこともあり、議会との駆け引きの意味もありそうです。 高価で高性能なハイエンド装備を揃えることは予算的に難しいため、比較的安価で一定の作戦能力を持つミドルおよびローエンドの装備と組み合わせる「ハイ・ローミックス」の考え方が採用されることが一般的です。たとえば、F-15(高価高性能)とF-16(廉価)の組み合わせがよく例示されます。軽ステルス機は、ローエンドに位置付けられるものです。
機体にお金をかけないのが現代の戦闘機開発か
なお、非正規戦ではNGADはオーバースペックであり、低レベルのミッションに対応できる多目的軽戦闘機の必要性も議論されています。ただし、軽ステルス機は軽装になる分、航続距離が短くなり、ペイロードも減少します。これが広大な太平洋地域での運用において問題となる可能性があるのです。 アメリカ空軍は次世代給油機、すなわちステルスタンカー構想を進めており、2024年9月にはNGADとも関連していることが確認されています。ステルスタンカーが実現すれば、作戦地域近くで給油できるようになり、軽ステルス機でも活動範囲が広がるでしょう。 ステルスタンカーを含むさまざまな機能を、軽ステルス機のような有人・無人プラットフォームに分散させ、任務に応じて組み替える方法が合理的であるとの意見も出ています。機体にはできるだけ金を掛けず、ソフトウェアをアップデートすることで最新の状態を維持するというコンセプトです。これが第6世代戦闘機のひとつの解答かもしれません。 垂直尾翼すらない未来戦闘機のイメージには夢がありますが、あらゆる機能をひとつのプラットフォームに詰め込んでハイエンドを追求する発想は、実は未来的どころか、時代遅れかもしれないという皮肉です。ロッキード・マーティンやボーイングは、NGADの元受け業者としては入札に参加しないことを示唆しており、NGAD計画が事実上凍結されているとの情報もあります。このような巨額の計画が、純粋な軍事的要因だけで動くことはあり得ないのです。
月刊PANZER編集部