COVID-19による経済への影響と支援策から見えた、日本の危機
◇日本が25兆円も投じた経済支援策で得られた効果は、2.7 兆円程度 今回の分析結果について、より詳しく見ていきましょう。コロナ禍により、鉄道や航空や宿泊業などに影響があったことは皆さんのご存知でしょうが、とくに航空業界はマイナス72.0%という大打撃を受けています。メディアでもあまり取り沙汰されておらず私自身も意外だったのは、輸出入が減ったことによる輸送機械工業への影響です。業界も大きいため4.5兆円以上もGDPが下落したと見られます。そのほか飲食サービスが3.8兆円、生活娯楽産業が2.8兆円ほどマイナスになっています。 逆にプラスになった業界もあります。巣ごもり需要により、物流関係が上昇。また、ゲーム機が高い売上げを示しました。教育を含めオンラインでできるサービスもプラスになっています。全体的に小売りも盛況となり、1%を超えるぐらいGDPにプラスになったようです。 政府の経済支援策による影響も解析しました。中小企業への支援金や1人あたり10万円の特別定額給付金など、政府はコロナ関連の経済支援として総額25兆円を使いました。その結果、総GDP を1.39 %増加させ、プラスの効果は2.7 兆円を超えたと考えられます。一連の経済政策がなければ、マイナス4.21%となった GDPの減少幅を、2.91%ぐらいにまで縮小。すなわち15.4 兆円近くにのぼると考えられた損失額を13兆円弱までに食い止められたのではないかと予測できます。 しかし逆に言えば、25兆円も使って2.7 兆円ほどの効果しかなく、もっと別の使い方があったのではと正直思います。投じた25兆円は、金利もつけて将来の世代がすべて負担することになります。お金の拠りどころを国債発行でまかなった以上、将来世代にツケを回した影響も分析しなければなりません。
◇便益が最も高い政策を取るため、客観的データに基づいた数値解析を 内閣府は半年に1回、経済財政に関する中長期的な試算を公表していますが、そこでの将来想定は、かなり楽観的なケースも想定しています過去数十年の経済成長率を見ても、日本はほとんど成長していません。欧米に比べ、日本は設備投資も非常に遅れており、IMF(国際通貨基金)などの国際機関から何度も指摘を受けています。そんななかで3%近い成長率を達成し続けると想定している内閣府の一部の試算は、かなり非現実的です。 経済支援政策は、長期的な視点で考えることが本来、重要です。我々も含め世界の経済学者が指摘していることは、今の政策で日本経済を維持させるのは不可能に近いということです。このままいけば、財政危機によって事実上経済破綻をしたギリシャの二の舞になりかねません。 さらに言うと、100年ほどの間に人口が半減するとも言われている極端な少子高齢化が進む日本社会で、経済が安定的に成長するとは考えられません。よほどの技術革新が起きない限り、維持すらままならないでしょう。何かあると政治家はすぐ国債発行でまかなおうとしますが、将来の世代に借金を先送りして、今いい顔をするのはさすがにもうやめるべきです。全部さらけ出し、大幅な財政カットをしない限り、日本の経済は立ちゆかなくなります。 国民から理解を得るためにも、正しい政策判断を行うためにも、論理的な思考に基づいて、エビデンスを示すアプローチがますます重要になります。経済学は、そのための学問とも言え、現実社会に反映されなければ意味がありません。ただ、日本では残念なことに、数式を当てはめるだけの絵空事だと誤解されることもあり、欧米のように経済学を正しく認知されてこなかった場合も少なくありません。経済学的な視点の本流は、非常に実学的で有意義なもの。為政者は、費用を差し引いて得られる便益が最も高い政策をとるべきです。 これは何も国だけでなく、個人にも言えることです。一般企業でプレゼンをする際も、感情的に訴えかける熱意も大切ですが、その熱意を裏付ける論理的な説明がなければ説得できませんよね。根拠は何か、どうプラスになるのか。なるべく客観的なデータに基づき現状を分析したうえで、最善の提言はこうだと示すことが大切です。何かを提案する際には、これだけ費用はかかるけれど、こういった便益があるということを、客観的なデータをもとに計算し、いかに精密な数字で示せるかがカギを握っています。現代社会を理解し、よりよい社会をめざすためにも、経済学的なアプローチや視点をもつことは重要だと言えるでしょう。
加藤 竜太(明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授)