COVID-19による経済への影響と支援策から見えた、日本の危機
加藤 竜太(明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授) COVID-19は日本の総GDPに対し、どのような影響を与えたのでしょうか。それに対し、政府のとった支援策は、何をもたらしたのでしょうか。COVID-19が日本経済に与えた影響を分析したことによって見えてきたのは、財政破綻へと突き進む日本の危機的状況でした。 ◇日本の総GDPを4.21%減少させ、15.4兆円近い損失を生んだCOVID-19 日本経済を構成する関連要素をすべてモデルに組み込む方法で、COVID-19による影響を見たところ、日本の総GDPを4.21%減少させたと算出されました。厚生上の損失(課税・規制・補助金などによる総余剰の減少分)は15.4兆円近くに上り、経済全体にかなり大きな負のインパクトがあったと考えられます。 今回の数値解析に使ったのは、日本経済を再現した静学的な一般均衡モデルです。まずこれがどのようなものかを説明しましょう。「風が吹けば桶屋が儲かる」のように、経済は連鎖反応で変化していきます。そんな関係し合うすべての要素を取り込んで考えるのが一般均衡と呼ばれる分析です。しかし、いきなり考えるには複雑になり過ぎますので、まずはスタート時点の直接的な効果だけを見ようとすることを部分均衡分析といいます。 例えば小麦の値段が上がれば、小麦を使っている人たちや生産者たちは直接影響を受けますよね。その部分だけを見るのが、部分均衡分析です。ただ、それだと経済全体へのインパクトはわからないため、一般均衡分析ではその先、たとえば小麦を飼料とする酪農に関わる業界の人たちへの影響も考えます。さらに影響を受ける層の所得が減れば、日頃購入しているもののパターンも変わってくる。第一次から始まり、二次、三次と続くすべての連鎖を考えるのが一般均衡分析です。 これらに加え、経済学の場合、静学と動学にも分けられます。静学は、あえて時間的な流れを追わず、その因果関係がどう変わるかに焦点を絞ったもの。例えば税制改革をした何年後には、こう変わっていると比較する分析です。一方で、国債を発行し、そのツケを将来に回すといった政策の効果を、時間を通じてどのように変化するか、その経過を分析しようというのが動学分析です。 経済学的な分析では、社会を2つのグループに分けて考えます。財やサービスを使う側、いわゆる消費者のグループと、それらをつくる側である生産者のグループ、後者は企業とも言えます。社会は混沌とした複雑怪奇な集団ではあるものの、金勘定という側面から見ると、この2つのグループで成立していると考えます。いずれのグループでも、それぞれの「やりたいこと」と「できること」をはっきり区別し、できる範囲内で一番やりたい行動をとった結果、経済がこう動くと合理的に説明することができます。 消費者と生産者のグループ、両者が出会う市場での均衡状況をプログラムで書いて、経済全体の動きを計算して分析するのですが、コンピュータで計算させる以上、関数の中で与えるパラメータの値を特定化する必要があります。現実の社会を100%近くなるべく反映させるため、5年1度のペースで出されている日本の産業連関表の最新版、2015年のデータをベースに、国民経済計算年報のデータも活用しながらパラメータ値を設定しました。