百寿の風景写真家、意欲尽きず「地上でオーロラ撮りたい」写真集完成、26日から作品展 西宮
百寿を迎えた写真家が、兵庫県西宮市にいる。伊賀規(ただす)さん(99)。定年退職後に写真を撮り始め「生涯、風景写真の道を進もう」と決意。絶景を求めてこれまでに海外9カ国へ渡り、いまも「まだ行きたいところがある」と意欲は尽きない。百寿を記念する写真集がこのほど完成し、26日からは記念作品展が地元西宮で開かれる。(吉田敦史) 【写真】スイスのリッフェルアルプリゾートホテルから撮った「鶏頭マッターホルン」 伊賀さんは大手化学メーカーを退職後、大阪外国語大学英語学科の第二部(夜間)で4年間学んだ。その頃に六甲山などの低山によく登り、自然の美しさを写す喜びを知った。 1996年に大阪のあらうんどフォトクラブに入会。仲間と出かけた琵琶湖で夜明けに撮った作品「春は曙」が99年、京都新聞社主催のびわこフォトコンテストで入選し、さらに滋賀県の参議院選挙ポスターに採用された。「公に認められたのがうれしくて、本格的にやる気になった」。風景写真がライフワークになった。 会社員時代から長く住んだ大阪・北千里を離れ西宮へ移ったのを機に2009年、白光写友クラブに入った。戦前・戦後の著名なモダニズム写真家、故本庄光郎(こうろう)さん(1907~95年)がかつて顧問を務めるなど、阪神間で最も伝統があるとされる写真愛好者団体だ。伊賀さんは会長だった故有馬清徳さんの指導を受けた。 中国やカンボジア、スイスなど、海外にも精力的に撮影に赴いた。最後の渡航は8年前のアイスランド。ずっと撮りたかったオーロラが目当てだった。「1週間滞在すれば5日は見られる…はずやったんですけど」。天候不良で一度も拝めず、肩を落とした。 帰りの飛行機で機長からアナウンスがあった。シベリア上空でオーロラが見えるかもしれないのでお楽しみに、と。「これしかない」。だが、窓越しの撮影では機内の照明などが映り込んでしまう。伊賀さんは客室乗務員に暗室をつくってほしいと頼み込んだ。 むちゃな願いを、3人の客室乗務員がかなえてくれた。暗幕が張られた小部屋で「これは何としても撮らなあかん」と奮い立った。暗い夜空にレンズを向けるが、飛行機の揺れがあるためシャッタースピードは落とせない。冷静に露出を設定し、緑色に輝くオーロラを空中で射止めた。 伊賀さんは長らく、デジタルカメラを好きになれなかった。「フィルムは三原色で、分子と分子が合成されて写真になる。ところがデジタルは…」と、元化学メーカー社員らしく理由を説明する。でも最近はデジタルでないと写せないものがあると気付いた。飛行機から撮ったオーロラも「自在に露出を変えられるデジタルでこそだった」と振り返る。 オーロラへの思いはまだくすぶっている。地上で納得のいく写真を撮りたいという。米国のアラスカか、カナダのイエローナイフか。今度は確実に撮れるところで、と意志は固い。 長く現役でいられる理由について伊賀さんは「一度も自家用車を持ったことがなく、いつも徒歩と公共交通機関で移動してきたから足腰は強かったと思う」と語った。 伊賀さんの百寿記念展と有馬さんの遺作展を兼ねた白光写友クラブの写真展は26日~12月1日、西宮市北口町の市立北口ギャラリー(TEL0798・69・3160)で開かれる。無料。