「もしかして腎不全かも…」尿の回数と量にあらわれる「危険な兆候」とは?【専門医が解説】
● 自分の腹膜を使う人工透析が7年しかできない理由 「むくみがあらわれるのは、腎臓のろ過機能の低下によって十分な水分が排出できなくなり、体内に余分な水分がたまるためです。また、思考力の低下や倦怠感、不眠、頭痛、吐き気などの尿毒症症状と呼ばれる症状も現れます。そして、ひどい状態になると人工透析が必要になり、腎臓移植を行わない限り生涯必要な治療となります」 人工透析とは、腎臓が本来果たすべき血液のろ過を、人工腎臓を利用して行う治療(血液ろ過透析)だ。腹膜を透析膜に利用した腹膜透析(普通透析)もあるが、現在は人工腎臓が主体となっている。 「日本透析学会の統計資料によると、日本で血液透析を受けている患者は2022年で34万7474人報告されています。透析なんてお年寄りに必要な治療だろう、と思われる方もいるかも知れませんが、40歳頃からその割合は増えていき、40歳代は人工透析を受ける人の5%程度、50歳代は10%以上を占めています」 日本で多く行われている人工腎臓を使った血液ろ過透析は、体内から出した血液を血液透析膜で浄化し、その後に再び体内に戻すという作業が行われる。透析の頻度は週に3回、1回あたり4時間というのが標準的な治療で、年間で150回以上もの透析治療が必要になる。そのために病院や専用施設に通う必要があり、負担も大きい。 もう一つの腹膜透析は、透析液を自身のお腹の中に注入して、腹膜によって透析を行うものだ。1万人程度の患者がこの方法によって透析を受けている。 「腹膜透析は家庭でも可能で、自宅で透析液を交換できるので月に1~2回の通院ですむのが最大のメリットです。しかし、腹膜は硬化するので、7年程度しかこの方法で透析することはできません。そしてその後、人工腎臓治療に戻るのが通常です」 人工透析以外に、負担の少ない治療法はないのだろうか。
「欧米では国家施策として移植を推奨しています。イニシャルコストは高いのですが、その後の人工透析の治療費や通院の頻度のことを考えると、負担は小さくて済みます。しかし、日本では移植用の腎臓の提供が少ない。このため、人工透析の技術がガラパゴス的に進化してきました」 日本の人工透析は、小分子から大分子までよくろ過できる血液ろ過透析が約55%を占めるという。透析器は種類が多くて、きめが細かく、性能が高い。櫻井院長いわく「世界最高峰の技術」である。また、日本で人工透析を受ける人の余命も延びている。 ● 腎臓の機能が低下しない 生活習慣とは? 腎不全にならないようにするには、日頃から腎臓の機能が低下しないような生活習慣を心がけたい。 「腎臓の働きを守るためには、減塩が大切です。腎臓は食事で摂取した塩分を尿として排泄する役割を担っていますが、塩分を取りすぎると過剰排泄となり、腎臓に負担がかかってきます。それとともに動脈硬化を防ぐことが大切で、これには適切な食事量と適切な運動量の継続的な確保が必要です」 令和元年の「国民健康・栄養調査」によると、日本人の平均塩分摂取量は1日あたり10.1gだが、厚生労働省は生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底を図るため、平成27年から1日の食塩摂取の目安を男性は8g未満、女性は7g未満と定めている。 「また、タンパク質を多く取りすぎると尿素やクレアチニンなどが体内で増加し、腎臓への大きな負担になります。このため、過剰摂取を避け、必須アミノ酸をバランスよく含んでいる動物性のタンパク質を取るように心がける必要があります。日本腎臓学会では、タンパク質の摂取量は体重1kgあたり1日1.3gを超えないことを目安としています」 水分不足も腎臓に負担をかける原因となる。水分が不足すると脱水症状を引き起こし、体内の水分量を調節する働きがある腎臓に負担をかけてしまうからだ。このため、夏季には熱中症に十分注意することも必要だ。 さらに、腎臓病の発症や進行の予防には、糖尿病、高血圧症、脂質異常症といった症状を引き起こし、腎臓への負担が増すメタボリックシンドロームを防ぐことも重要であり、適度な運動や適切な睡眠も欠かせない。これらのことに留意し、腎臓が快適に働くよう、心がけていきたいものだ。 (監修/橋本クリニック院長 櫻井健治)
櫻井健治/西田延弘