なぜホテルに真空包装機? インバウンド激増で生まれた意外なニーズ
TOSEIは真空包装機を、変なホテル東京 浅草田原町に納入した。これまで真空包装機は主に食材や食品、半導体などの包装に使われてきた。それがホテルに導入された背景にあるのは、訪日外国人観光客の増加だという。一体何に使うのか。 【関連画像】スマートパックの上には、日本語、英語、中国語でどんな機器なのか簡単な説明ポスターが張ってある。ポスターにはイメージ画像も載っているため、利用客が何をする機械なのか理解しやすい 変なホテル東京 浅草田原町(東京・台東)のロビーへ行くと、黒い謎のボックスが設置されている。夜になるとそのボックスの前に、宿泊客がぬいぐるみや洋服を抱いて、列をなしている――。 黒いボックスの正体は、業務用クリーニング機器や真空包装機の製造販売するTOSEI(東京・品川)の真空包装機「スマートパック」だ。スマートパックは、袋の中の空気を抜いて真空にすることで、荷物自体が圧縮されコンパクトになる。 ●約30秒で圧縮完了 使い方は簡単だ。スマートパックの横にある備え付け袋の中に、圧縮したい衣類やぬいぐるみを入れる。物を入れた袋を包装機にセットし、200円を入れる。蓋をすると袋の中の圧力が下がり、数十秒で真空パックが完成する。 200円で3分間利用でき、「(3分間で)2~3回圧縮できる」(TOSEI営業本部市販営業統括部東京支社副支社長の土屋昌彦氏)という。包装できるのは、A2サイズまでだ。 筆者も試しに、ホテルで使用しているバスタオル3枚を真空パック化してみた。まず、真空包装機の横にはあるモニターで、使用方法や手順を確認。手順通りに袋を機械にセットして蓋を閉じると、あっという間に圧縮されコンパクトになった。圧縮自体に30秒ほどかかるので、セットするまでにてこずらなければ3回できそうだった。 終始ややこしい手順はなく、初めての人でも動画で手順を確認さえすれば、難なく使いこなせそうだと感じた。動画は日本語、英語、中国語の説明書きや音声とともに流れるので、言語の壁の心配もない。
業務用機器から一般用への挑戦
真空包装機は主に食材や食品、半導体などの包装に使われている。TOSEIも飲食業や物流業など、業務用に真空包装機を開発・販売してきた。「企業として存続するためには、新しいことにも挑戦し続けなければいけない」(土屋氏)ため、機器をスリム化、セルフ式にし、消費者が使えるスマートパックを開発した。 業務用の場合、使用する用途に合わせて圧力を変えられる設定がある。少々複雑で説明書が分かりづらい場面でも、使用する人が限られているので、一度レクチャーすれば解決する。 しかし、セルフ式はそうはいかない。経験も知識も異なる老若男女が使用するからだ。そこで、市販のポリ袋が使用でき、蓋を閉じるだけで圧縮できるような設定にした。説明も文章だけでなく、動画でやり方を見せることで、実際にどう動かせばよいかが分かりやすくなる。 変なホテルは受付フロントが無人ではあるが、バックヤードでスタッフが待機している。もしスマートパックの利用者が使い方に戸惑っても、フォローできる体制が整っていた。 ●インバウンドに注目し宿泊業界へ 前述した通り、真空包装機は飲食業界で使用されることが多く、これまでの営業先も飲食業界がほとんどだった。異業界である宿泊業界への導入が決まったのは、変な商社(東京・練馬)との取引があったことが大きい。 スマートパックの販売代理店を担っている変な商社は、観光DX事業や宿泊施設の調達業務や備品・消耗品などの販売を行っている。「社名に“変な”と入っていることもあり、ユニークな商品を期待されることが多く、我々もそれを強みにしている」(変な商社ツーリズム商事事業リーダーの飯田紀子氏) 海外の航空会社にはスーツケースの個数制限があることも多く、スマートパックは外国人観光客にとってメリットになるのではと見込んだ。変なホテルは、世界初のロボットホテルとしても有名で、外国人観光客も多く、浅草田原町では外国人宿泊客が8割ほどを占める。こうした背景から、変なホテルとスマートパックの相性が良さそうだと思い、まずはテスト的に導入することになった。 2024年3月に2週間程度行ったテストでは、多くの人が利用し好感触を得た。「チェックアウトの前日、おそらくパッキングの前に利用されるお客様が多かった。夜はちょっとした列になることもあった」と、変なホテル東京 浅草田原町統括支配人の伊藤文樹氏は話す。 宿泊客の多くは4~7泊するといい、土産などでさらに荷物が増えるのを加味すると、スマートパックで荷物の体積が減らせることは、顧客満足度の向上にもつながりそうだ。 大々的な告知は行っていないものの、テスト期間に利用し、テスト期間終了後同ホテルをリピートした顧客からは、スマートパックは置いていないのか質問されたという。 「変なホテル自体、顧客のリピート率が高い。スマートパックは宿泊客の顧客満足度を高め、リピート率をさらに伸ばす要素になり得ると思った」(伊藤氏)ため、24年6月に常設設置に至った。常設設置後も稼働率は高いという。 浅草田原町では、利用を宿泊者に限っていない。浅草エリアは外国人観光客も多く、宿泊施設も多い。「別の宿泊施設に宿泊している人で、スマートパックを利用しに変なホテルを訪れれば、変なホテルを知ってもらう機会にもなり、次回以降の宿泊施設の選択肢として想起させられる」と、伊藤氏は期待する。 今後は、変なホテルの別施設を含む、他の宿泊施設へもスマートパック導入を提案していきたい考えだ。新型コロナウイルス禍が明け、円安による割安感もあり続々と増えている外国人観光客。大きなぬいぐるみや洋服を手軽に持ち帰れる真空パックが、旅の手伝いを担っている。
松野 紗梨