【担当記者コラム】ラグビー埼玉・谷昌樹がみせた「野武士軍団」の精神… 社員選手として11年に節目「とにかく、楽しかった」
ラグビー・リーグワン2023―24シーズンが終幕して1週間がたった。BL東京(旧東芝)がレギュラーシーズン無敗の埼玉(旧パナソニック)を24―20で破って、14季ぶりの優勝。栄冠はBL東京に渡ったが、埼玉はリーグワン創設から3季連続で決勝に進出。トップリーグ(TL)時代を含めれば4季連続でファイナルに進み、常勝軍団としての一貫性を見せつけた。 5月31日、今季限りでの退団選手を発表した。すでに引退を表明していた元日本代表のフッカー堀江翔太や、SH内田啓介ら6人。その中に、フランカー/NO8谷昌樹の名前もあった。リーグワンキャップ数は6。試合出場メンバーを「ワイルド」、ノンメンバーを「ナイツ」と呼ぶ埼玉において、谷は主に「ナイツ」として近年はチームを支えた。対戦相手を週ごとに分析、コピーし、練習の中で「ワイルド」の相手役になる。強度と質を高め、ワイルドナイツとしての進化に寄与し続けた1人だ。 2013年度入団の33歳。「楽しかった。とにかく、楽しかった。いい思い出しかない」と谷は語った。13歳から始めたラグビー。東海大を卒業後、最初に声をかけてもらったという当時のパナソニックに迷いなく入団した。社員選手として過ごした現役生活。チーム関係者は「社員では最年長。谷の言うことだったら、誰でも聞きます」と太鼓判を押す。理由は明白。実直にラグビーに向き合う姿を、誰もが認めていた。 群馬・太田市に拠点があったTL時代、オフシーズンは午前8時15分から午後4時45分までの工場勤務。仕事後のトレーニングルームは混雑するなど体力維持が難しい中、谷は早朝練習してから出勤していたという。「オフに状態がよくなってシーズンを迎えていた。谷ができて、他の若手選手ができないわけがない。努力不足でしょうと。だから人望があるし、発言力がある」とチーム関係者。面倒見のよさも谷らしさ。日の目を見ないナイツの若手選手を見て「白髪が増えたな」と思えば気にかけた。 昨年のシーズン中、本人が語ってくれた一例だ。「精神的に追い込まれて、肉が食えないって言い出したやつがいて。『肉食えへんやつなんか、おらんやろ』と。『飯行く?』って言って、カレーのトッピングにめちゃくちゃ肉を乗っけて。食べてましたけどね。『食えるやん!』って(笑い)」。堀江ら年長選手がチームに発した言葉を、理解していない若手選手がいれば「こういう事言うてはんで」とサポートもしてきた。「おしゃべりが好きなんです。色んなメンバーに声をかけて。だから、誰か口数が減っていたりしたら気づけるのかもしれない」。原動力はチームへの愛情。「僕はみんな好きですから。好きなんで」と笑う顔は、優しかった。 シーズン終盤に引退が決まり、同期のプロップ稲垣啓太にも報告したと言う。2人で食事中に「『本当にさみしい』と言ってました。本当か分からないですけど(笑い)」と谷。チームに惜しまれながらブーツを脱ぎ、社会人としての人生を歩み出す。後輩への期待は、常勝軍団としての変わらぬ姿だ。「ずっと勝ってて欲しいですね。ずっと、勝って欲しい。『俺、ここでやってたんやで』って言えるくらい。まぁ、言わないですけど」。取材の機会は多くなかったが、口調から性格がにじむ人。背中で見せ、時に手を差し伸べ、粋に振る舞う。「野武士軍団」を体現する1人だったと思う。(大谷 翔太)
報知新聞社