「馬上槍試合ゾウムシ」は体重の差が26倍もあると判明、普通は3倍前後、どういうこと?
小さな体には別の「武器」が潜んでいた
小さな巨人たちの世界では、繁殖に成功するのは大きなオスだけだろうと思われるかもしれないが、実際にはそうではない。 ソムジー氏によると、小さなオスが巨大なメスと交尾することもあれば、大きなオスが小さなメスと交尾することもあるという。 氏は実際に、そうした事例を目撃している。非常に大きなオスが、交尾後のメスの体の上に槍状の頭部を置いていたところ、そこに小さなオスが忍び寄り、大きなオスに気づかれないうちにメスと交尾したように見えたという。もっとも、大きなオスはその後すぐに小さなオスの存在に気づき、槍の一撃でこれをはじき飛ばしてしまったそうだ。 科学者たちは、小さなオスは別の種類の「武器」を持っていることを発見した。彼らの精巣は、大きなオスの精巣に比べて非常に大きいのだ。 このような過当競争が始まった原因は、おそらく倒木の希少性にある。 ソムジー氏は、「木が倒れることはめったにないので、そういうときには、限られた資源を利用しようと、周辺にいる甲虫たちが集まってきます」と言う。1平方メートルあたりの甲虫の数が400匹ほどになることもあるという。「とんでもない密度です。もう戦場です」
メスも戦う
多くの種のオスが頭部に奇抜な武器を備えているが、少なくとも馬上槍試合ゾウムシは、メスも武装している。 オスたちがメスをめぐって争っているときでさえ、馬上槍試合ゾウムシのメスたちは貴重な産卵場所をめぐって活発に戦っている、とソムジー氏は言う。オスと同様、メスたちも体の大きさに著しい個体差があり、巨大なメスは小さなメスの22倍も大きい。 メスは良い産卵場所を見つけると、頭部の武器を使って樹皮に穴をあける。つまり、メスの頭部の武器は2通りに役立っているのだ。 「オスの武器と、その途方もない形と大きさは一目瞭然なので、その性選択についてはよく理解されています」と、進化生物学者で米モンタナ大学の博士候補生であるニコール・ロペス氏は言う。「ですから私は、今回の研究にメスが含まれていることが本当に嬉しいのです」 ロペス氏はこの研究には参加していないが、これらの新しい研究は、進化が動物の武器を極端なものにするしくみについて新たな知見をもたらすものだと評価する。 「発達のトレードオフや制約について調べた論文はたくさんあります」とロペス氏は言う。「けれども、1つの種の中で調べられることはなかなかないのです」
文=Jason Bittel/訳=三枝小夜子