韓国で非常戒厳:日韓関係が再び悪化すれば日本のGDPを0.23%押し下げると試算
突然の「非常戒厳」宣布で尹大統領は失職を強いられるか
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は3日夜に、突然「非常戒厳」を宣布した。これを受けて、国会議事堂には反対する人が大勢集結した。国会は「非常戒厳」解除の要求を議決し、大統領は4日早朝には、非常戒厳を解除すると表明した。その間約6時間であり、まさに朝令暮改だ。 大統領は、国会で野党との対立を深める中、局面の打開を狙い、また野党の動きを封じる狙いで「非常戒厳」を決めたとみられる。しかしこの措置については、野党は憲法違反との批判を強め、最大野党「共に民主党」を含む野党6党は4日午後に、尹大統領の弾劾訴追案を国会に提出した。 韓国では大統領が内乱などの罪を犯した場合を除いて、在職中は逮捕されることはない。しかし、国会が「大統領にふさわしくない」と考えて辞めさせることができるのがこの弾劾制度だ。過半数議員の同意で訴追案が発議され、3分の2以上が賛成すれば可決される。 2016年には国会が朴槿恵大統領を弾劾訴追した。憲法裁判所は朴槿恵の罷免を認める判断を下し、1987年の韓国民主化以来、初の任期途中での失職となった。 同様の経緯を経て、尹大統領が失職する可能性がでてきたのではないか。その場合、2025年前半にも大統領選挙が行われ、その場合には最大野党「共に民主党」の候補が選ばれる可能性が考えられる。
輸出悪化と観光客減少の影響でGDPは0.23%低下すると試算
2022年以降、尹大統領の下で日韓関係は目覚ましく改善したが、大統領が変われば、日韓関係が再び冷え込んでしまう可能性もあるだろう。それは、両国間の経済関係にも悪影響をもたらす。 近年では文在寅(ムン・ジェイン)前大統領のもと、2019年に日韓関係はかなり悪化した。当時、日本が韓国向けの輸出管理強化措置を取る一方、韓国では日本製品のボイコットが行われたため、日本から韓国の輸出はその分減少した。日本から韓国に向けた輸出が輸出全体に占める比率は2019年には6.6%と、それ以前の5年平均値7.3%から0.7%ポイント下振れた。 また、2019年には2国間の関係が悪化した影響から、韓国から日本への訪日客数は、6月から9月までのわずか3か月間で67%も急減した。 仮に今後、対日批判姿勢が強い大統領が新たに就任し、これをきっかけ日韓関係が再び2019年の状態まで悪化する事態を考えてみよう。 現在、2019年と同様の韓国向け輸出比率の低下(-0.7%ポイント)が生じれば、それは年間の日本の輸出額を7,339億円押し下げ、名目GDPを0.124%押し下げる計算となる。 また、2019年と同様に韓国からの訪日客数が67%減少する事態が生じると仮定しよう。2024年7-9月期に日本を訪れた韓国人観光客が日本での旅行で使った消費額の合計は2,285億円、年率換算で9,140億円となる。これが2019年と同様に67%減少する場合には、3,016億円へと6,124億円減少することになる。これは、名目GDPを0.103%押し下げる計算となる。 貿易を通じた影響と観光を通じた影響を合計すると、GDPの押し下げ効果は1年間で0.227%となる。日韓関係の悪化は、日本経済に相応規模でのマイナスの影響を生じさせることになる。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英