大切なことがニュースにならない日本のテレビ報道へ疑問をもつ30歳の相談者に、鴻上尚史が伝えた「テレビの報道のありかた」とは
「共同親権」も、参議院で可決、成立した途端、NHKをはじめテレビのニュースで報じるようになりました。そうすると、ネットではさんざん言われている、「共同親権はすでに離婚が成立している人も対象」とか「法務省が『共同親権』の例として挙げているのは、幼稚園や学校の選択、進学か就職かの選択、転居先の決定、生命に関わる医療行為などで、これらに父親母親の同意が必要」とか、ようやくお茶の間レベルで知られるようになるわけです。 で、例えば父親がDV(肉体的だけではなく、言葉とか経済的とか)の場合、どうしたらいいのかという国会での質問に法務大臣は、「DVや虐待は、話せば裁判所に通じると思う」なんて本当に言うわけです。 裁判所がどうやって、すべてのDVや虐待を見抜くことができるのか、どういうシステムでどれぐらいの人数でやるのか、突っ込み所満載の「希望的答弁」なわけですね。 でね、こういう「テレビは、本当に私達の生活を変えてしまうかもしれない大切なニュースを報道しない」という話をすると、「しょうがないじゃねーか。大谷さんや通訳のニュースを流すと視聴率が取れるんだから。どんどん、テレビ離れしていく現状の中で、確実に視聴率が取れる話題をやるのは当たり前なんだよ」という反論がきます。テレビ関係者なら、切実な反論ですね。 でも、こうやって反論している人の多くは、テレビ関係者じゃないと思います。ただ、冷笑的に反論してます。誰得なんだろうといつも思います。 もっとはっきりした反論だと、「テレビはその国民のレベルを表すんだよ。共同親権だのパレスチナだの報道したって、誰も見ないんだよ。スポーツとグルメしか、この国民は興味ないんだよ。この国は終わりなんだよ」というものです。
「終わりだよ」と言って、この国を出て行くのなら分かりますが、ただそう言って、生活は続けている人が多いと思います。「終わりだよ」なんて哀しい気持ちのまま、生きていきたくないと僕は思います。 視聴率の問題は、はっきり言えば、「鶏と卵」だと僕は思っています。 報道しないから見ない、見ないから興味ない。興味ないから報道しない。それだけのような気がするのです。 だって、見知らぬスポーツも何度も放送されたら、だんだんとファンも増えてくるでしょう。知らない俳優さんも、何回も見ると、だんだんと親近感がわくでしょう。 心理学で言う「単純接触効果」ですね。繰り返し接すると、どんどん興味がわいてくる、というやつです。 ただし、放送や報道の仕方は、かなりの腕が必要だと思います。センスと技術です。陽気な話題は、そのまま報道しても陽気です。みんな、喜んで見てくれます。 でも、私達の生活を決定するいろんなことは、たいていは、重くて深刻で複雑です。残念ながら、重いことを重いまま、深刻なことを深刻なまま、複雑なことを複雑なまま提出すると、多くの人々は拒否反応を示します。 僕だって、朝起きて、テレビからいきなりガザの悲惨な風景が飛び込んできたら身構えます。帰宅してふっと力を抜いた時、DVを受けて、母子が逃げている告白を聞くには、エネルギーが必要です。 でも、パレスチナ問題も共同親権も選択的夫婦別姓も同性婚もインボイス制度も旧統一教会問題も世界3位になる予定の軍事費も、とても重要な問題です。
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