マネスキンのヴィクトリアが語るDJに目覚めた理由、セクシーとハイエナジー、多様性の追求
DJとしてのスタイル、多様性が尊重されるクラブ空間
―あなたが好むダンス・ミュージックは、音楽的なスタイルで言うと90年代のテクノが起点なんだそうですね。その後どんな変遷を遂げたんでしょう? ヴィクトリア:最初は90年代のハード・テクノに夢中だった。マジにハードなビートに。だから私は、速いBPMのビートが放出するエネルギーに惹かれてダンス・ミュージックに興味を持ったようなものなんだけど、ダンス・ミュージックをより深く掘り下げて、実際にプロダクションを手掛けるようになると、サウンドとリズムの多様性を思い知らされて、そこにインスパイアされるんだよね。そんな中で、最近はブラジリアン・ファンク(バイレファンキ)とラテン系のスタイルにハマっていて、全く別種のエネルギーを備えているし、ほかとは一線を画しているんじゃないかな。今のシーンの主流はまさにハードなテクノで、それも大好きなんだけど、私は独自のフレイバーで自分を差別化したいし、人々をひとつにつなぐようなハッピーでセクシーなエネルギーに惹かれる。ラテン系の音はまさにそういうタイプだから。 ―普段はロックバンドのベーシストであることは、DJとして、ダンス・ミュージックのプロデューサーとしてのアプローチに、どんな影響があると思いますか? ヴィクトリア:そうだな、ダンス・ミュージックだろうとロックンロールだろうと、私が好きなモノは変わらないんだよね。リフの主張が強くて、印象に残る派手なサビがある曲っていうのが私の好みであり、自然に耳を捉えるから、それはダンス・ミュージックを作る上でも反映されている気がする。と同時に、両者をつなぐより大きな要素と言えば、やっぱりエネルギーであり、オーディエンスとのインタラクションなんじゃないかな。終始エネルギー値を高いまま維持していくのが、どちらにおいてもすごく重要なんだと思う。 ―DJとしての自分のスタイルをどう表現しますか? ヴィクトリア:私が思うに、すごくプレイフルで、楽しくて、セクシーで、ハイエナジーで、あとは、ボーカルをいじるのが好き。ひとつの曲からボーカルだけを取り出して、別の曲に乗せたりとか……説明するのはすごく難しいんだけど。とにかくハードなエネルギーがあって、セクシーでプレイフルだという形容は出来るだろうし、たぶんそのハードなエネルギーはロックンロールの世界から来てるんだと思う。ただ、シリアス過ぎるのは自分らしくないのかな。例えば、すごくトリッピーなショウで、DJに催眠術をかけられるような体験も好きではあるけど、私自身はもっと楽しくて、みんなが一体感を感じられるショウをやりたい。ボーカルで遊んだり、どんどんトラックを切り替えたり、変化に富んだセットにするのが私のスタイルで、そのほうが刺激を感じる。8分とか長い曲をずっとかけてるってことは絶対にないし。とにかく楽しくてクレイジーで、パンクとも言えるのかも。 ―ファッションもマネスキンのライブの時とは違ったりする? ヴィクトリア:う~ん、どうかな、結局その日の気分で決めてるんだと思う。そんなにあれこれ考えてこだわってるわけじゃなくて。 ―盛り上がりが足りない時にかける定番曲ってありますか? ヴィクトリア:あるある。毎回のようにかけちゃう曲が幾つかあって、例えば、ミラノを拠点にしているミス・ジェイの「@t the Club」はほぼ毎回かけてるし、あとは、ブラジル人DJ/プロデューサーのRkillsの「Fogo No Puteiro(Rkills Remix)」、同じくブラジル人のPATIBULLの「XRE」、ノンバイナリーのウルグアイ系デンマーク人であるdj g2gの「Paleta x Faint」あたりかな。 ―クラブ・シーンでのマイノリティ、つまり女性やLGBTQのリプレゼンテーションについて伺います。元々男性主導のシーンとあって、女性DJの扱いなどに関してしばしばクラブ・シーンは批判にもさらされたものですが、最近は女性もどんどん増えて評価を勝ち取っていますよね。あなたの体験の範囲内で、どんな印象を受けましたか? ヴィクトリア:私はふたつのパターンに分かれていると思っていて、一方でクラブ・シーンは、LGBTQやマイノリティのコミュニティにとって、みんなが集まって自由に自分らしく振る舞える場所であり、レッテル貼りをされない場所であり、安全に感じられる場所であって、そこでは多様性やユニークさが尊重される。そんなゴールを掲げたパーティーが実際にたくさんあるし、私もそういう空間でプレイしたい。そして、そういう場所を作り上げたい。私の音楽ってそんな場所でこそ深く響くと思うから。でも他方で、男性に支配されたシーンが存在するのも事実。そこでは女性アーティストへの反感が溢れていて、実力のある女性DJたちがどんどんブレイクしているのを見て、「あいつはルックスがいいからブッキングされたんだ」とか、「あの女のウリは露出度の高さだけだろ。そのほうが人を呼べるし、技術はたいしたことないから」みたいなことを言いたがる男たちがいるわけ。自分こそリアルなDJだって威張ってるヤツが。それって結局ジェラシーなんだと思う。最高にカッコいい女性DJが次々にプレイして、めちゃくちゃ盛り上がっているイベントを見ていると、妬ましくなるんじゃないかな。