ヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ』映像化で出版社と家族の板挟みとなり病院に運ばれて。「出版社が自分の漫画で何を企もうと仕方がない」風潮は今変わりつつある
◆あと50年もすればマシになっているだろうか 当時、私のSNSには「実は自分の作品は著作権料なしで二次使用された」「二次使用の報酬をもらっていない」という漫画家やイラストレーターからのメールがいくつか届いたが、「でも何か言うと干されるから」と、彼らが表向きに声を上げることはなかった。 漫画家という職業につく人の多くは、人前で自らの考えを言語化したり言論で闘ったりするのが苦手である。だから漫画という一人きりでの作業が許される道を選択するのだと思うが、とにかく食べていけるのであれば、出版社が自分の漫画で何を企もうと気にしても仕方がないという風潮が以前までは明らかに強かった。 しかし時代を経て、潮目が変わりつつある。 漫画家にとって二次使用にはどういったメリットやデメリットがあるのか、原作者がどこまで関われるかという条件を踏まえ、それでも許諾するのか。 こういった交渉を円滑に進めるための漫画家の盾が存在していないことが、そもそもすべての元凶だと思う。私が声を上げたのが10年前。あと50年もすれば少しはマシになっているだろうか。私にはわからない。
ヤマザキマリ
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