まず「対話を“始める”」ために必要なこととは?中学校の教科書から「対話の前提」を整える術を学ぶ
いままで、「大切な人と深くつながるために」「いじめられている君へ」「親の期待に応えなくていい」など、10代に向けて多くのメッセージを発信してきた作家の鴻上尚史さんが「今の10代に贈る生きるヒント」を6月12日に刊行する。その書籍のタイトルは『君はどう生きるか』。昨年ジブリの映画でも話題になった90年近く前のベストセラーをもじったこのタイトル。なぜ「君たち」でなくて「君」なのか。そこには鴻上尚史の考える時代の大きな変化があった。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『君はどう生きるか』(鴻上尚史著)より抜粋して、著者がいまを生きる10代に贈るメッセージを一部紹介する。 『君はどう生きるか』連載第9回 『自由な意見を引き出す「ファシリテーター」に求められる資質とは...中学校で語られた理想的な「対話」のあり方』より続く
「一番大切なこと」をはっきりさせる
対話を続けても、ずっともめたままで、まったく結論がでないこともあるだろう。 今日、何して遊ぶかを話し合っているうちに、何にも決まらないで一日が終わってしまうみたいなことだね。 そういう時は、「一番大切なこと」は何かということを考えるんだ。 これは、どんな時でも重要なルールだから覚えておくといい。 4人の場合は、まず、4人が納得できる「一番大切なこと」をはっきりさせるんだ。 4人の中にジャイアンみたいな人がいて「俺様が楽しくなることが一番大切なことなんだ」と言ったとしたら、君も他の人もつきあってられないと思うだろう。 でも、もし「4人全員が楽しい時間を過ごすこと」が、4人にとって「一番大切なこと」だと納得したら、対話は始めることができるんだ。 誰かひとりだけが楽しかったり、誰かひとりがガマンしたりするんじゃなくて、4人がみんな「ああ、楽しい」という時間を過ごすこと。それが一番大切なことだとしたら、みんなの楽しさを同じにすればいいと考えてみるんだ。
みんなが同じマイナスを引き受ける
そのためには、「みんなが同じマイナス」を引き受ける、という考え方がある。 誰かひとりだけがマイナスになるのではなく、誰かひとりだけがプラスになるのでもなく、みんなが同じぐらいマイナスを引き受けるんだ。 例えば、4人がみんな、「時間の制限」というマイナスを引き受ける。 午前中はゲームして、お昼にショッピングモールに行って、午後にサッカーをして、夕方からはのんびりとみんなで話す、というのはどうだろう。 それじゃ短すぎるという場合は、1ヵ月で順番に今週はAさんのゲーム、次週はBさんのショッピングモール、次々週はCさんのサッカー、最後の週は1日、みんなでのんびりするとか。 それとも、ショッピングモールでサッカーのゲームソフトと飲みものを買って、誰かの家でみんなで遊びながら、いろんな話をするのはどうだろう。 それとも、4人の希望とはまったく違う、例えば遊園地に行くのはどうだろう。全員が自分の希望をひっこめるというマイナスを引き受けながら、それなりに楽しい時間をすごせるはずだ。 どうだろう? これが教科書の文章に書いている「おたがいが少し不満だけど、とりあえずやっていける解決」ということなんだ。 「みんなが同じだけゆずる」とか「同じだけ妥協する」「同じだけガマンする」ということなんだけど、これは、物事がもめた時に解決するための有効な方法なんだ。これも覚えておくといい。 『“論破”は「死体」を積み上げるだけの行為…“対話”が“論破”よりも長期的に有益な納得の理由』へ続く
鴻上 尚史