電車の車内が劇場に?「ことでんスリーナイン」出発進行
普段なにげなく利用している電車。その車窓や車内をテーマとしたドラマや演劇というのはよくあるが、そんな物語を実際に電車の中で演じるという演劇「ことでんスリーナイン」が、このシルバーウィークに行われている。なかなかユニークなこの企画、いったいどんな内容なのだろうか。~舞台は香川県を走る高松琴平電気鉄道、通称ことでん。ある日ここを訪れたのは、沿線で生まれ育った姉二人と、年が離れた妹の三姉妹。姉二人は自分たちの家があった駅に近づくにつれて、次第に口数が減っていきます。妹は知らない複雑な思い、それは妹が生まれる前に亡くなった父への想いでした。妹は少しずつ、会ったことのない父や「ふるさと」への感情に気づき・・・~
演者と運転士さんの息もぴったり
「ことでんスリーナイン」を手掛けるのは、今年で結成15周年を迎えた劇団、シアターキューブリック。同劇団では2004年に「エノデン・スリーナイン」という作品を劇場で上演しており、2007年の終わりごろに「この作品を実際に電車の中で上映できないか」というアイデアが持ち上がったという。 そこで、ぬれ煎餅で廃線の危機を乗り越えて話題になっていた銚子電鉄を題材にした「銚電スリーナイン」を2008年に制作。2014年には岐阜・樽見鉄道で「樽見鉄道スリーナイン」も上演した。 筆者は「樽見鉄道~」に乗車したのだが、観客が座る座席に演者も"同席"。これ以上ない一体感で、作品の世界に完全に引き込まれた。ストーリーは車窓とリンクしており、劇の進行に合わせて列車も運転されるなど、演者同士だけでなく運転士さんとの息もぴったり。ホームで列車を待つお客さんや農作業をしている沿線の人たちまで、劇の一部かと錯覚するほどだった。
見どころは、車窓に合わせたストーリー
この作品で主役を演じた谷口礼子さんによると、走る列車内ならではの苦労も多く、揺れる車内でバランスを取るため「普段使わない体の内側が筋肉痛に」なったそうだ。 また列車の運行ダイヤは決まっており、車窓の風景に合わせたセリフも多いため、芝居の進行スピードを秒単位で微調整しなければならないなど、劇場での上演にはない苦労があったという。それだけに「列車の運行と芝居がぴったり合うと、劇場では味わえない臨場感・一体感が生まれました。また、お客さんとの距離が近いので、反応を肌で感じ取ることができて勉強になりました」と話してくれた。 「ことでんスリーナイン」の見どころは、車窓に合わせたストーリーの進行と、登場人物の心境の変化です。また、楽曲制作は鉄道好きミュージシャンのオオゼキタクさんが担当。タクさんの生演奏が、皆さんを物語に引き込んでくれます」と谷口さん。舞台として使用される車両は、今年で90歳を迎えるレトロ車両で、車内には木製の部分も多く、懐かしい雰囲気の空間で物語を楽しめるに違いない。