副総裁講演テキストで一転して円安・株高も効果は一時的か:安定性を欠く日本銀行の情報発信に課題
あまりにも振れが大きく信認を損ねる恐れがある日本銀行の説明
金融政策を巡る日本銀行の説明は目まぐるしく変わっている。3月のマイナス金利政策解除の際には、先行きの金利引き上げはゆっくりとしたペースになることを強調した。それが予想外の円安を生んだのである。さらに4月の会合では、植田総裁は円安が2%の物価目標達成を助けるという円安のプラス面を強調し、それが「日本銀行は円安を容認している」との観測を生み、円安を加速させてしまった。7月の会合では一転して、総裁は円安のデメリットを強調し、さらに追加利上げに前向きな姿勢を見せることで、円安の牽制を図ったとみられる。そして今回の副総裁の講演テキストでは、追加利上げに慎重な姿勢を強調した。 環境の変化に応じて金融政策の姿勢が修正されるのは自然ではあるが、日本銀行の説明はあまりにも振れが大きく、日本銀行に対する信認を損ねるものになるのではないか。
日本銀行は信頼されるより安定し、一貫した説明に努めて欲しい
また、急にハト派の発言をすることで、金融市場の安定を図ることは一定程度理解できるが、日本銀行がその情報発信だけで金融市場を思うままにコントロールできるとまで、仮に考えているとすれば、それは思い上がりなのではないか。 副総裁の講演テキストを受けて、円安が進み、大幅に下落していた日本の株価は大きく上昇した。しかし、日本銀行に追加緩和を通じて金融市場の安定を確保する手段がない以上、追加利上げをしばらく行わない、という説明だけで、金融市場の安定を持続的に高めることはできないはずだ。金融市場への影響も一時的なものだろう。 日本銀行は、金融市場の環境変化に合わせて説明をころころと変えるのではなく、金融市場や国民に信頼されるより安定し、一貫した説明に努めて欲しい。そして、総裁と副総裁の説明の食い違いも大いに問題ではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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