日産、「旧ケイレツ」を救済せざるをえない事情、経営危機の河西工業に60億円出資の舞台裏
日産には、さらに出資比率を引き上げるオプション(選択肢)もある。出資から1年後、優先株を普通株へ転換することが可能な取得請求権が付与されており、これを行使すると日産の出資比率は75%まで上昇する。 ■日産色が強まるデメリットも だが、河西工業にとって日産の支配力が強まるのはマイナス面もある。 直近の河西工業の売上高に占めるメーカー別販売割合は、日産が約53%、ホンダが約19%、SUBARUを含むトヨタ系が約16%。近年はトヨタ自動車の基幹車種「アルファード」にドアトリムが採用されるなど、非日産向けの売上比率が徐々に拡大してきた。日産の子会社となれば、こうした非日産向け取引拡大に逆風となりかねない。
ただ、日産も子会社化は望んではないようだ。経営難に陥っている河西工業は当面、配当を出せる状況でもない。東洋経済の取材に対して、日産は「自主再建を支援するための出資であり、(子会社化については)再建が実現したタイミングで再度、河西工業と論議します。日産が支配するような意図はありません」とコメントしている。 河西工業は日産から調達する60億円を生産拠点の最適化に使う。北米や欧州の合理化を一段と進めることで、2024~2027年度の4年間累計で49.5億円の収益改善効果を見込む。直近の決算では営業黒字に転換するなど最悪期は脱しつつあり、回復軌道を確かなものにする狙いだ。
日産が取得予定の優先株は2028年4月以降、河西工業が日産へ取得請求することが可能になる。早期に再建が進めば、4年後に日産が株主から外れる可能性も出てくる。 河西工業の半谷勝二社長(9月に相談役就任予定)は「いつまでも日産に甘えきっていてはいけない。早期に再建し、自立できるような体力をつけなければならない」と社員に語っている。 とはいえ、一段の拠点再編には特別損失の計上など痛みを伴う。河西工業はメキシコ子会社の為替換算の計算方法の誤りを理由に、2024年3月期決算もまだ発表できていない。
日産からの異例の支援をもとに自主再建をはたせるか。老舗サプライヤーの正念場は続く。
秦 卓弥 :東洋経済 記者