ツアーファイナルで錦織が“死のグループ”を勝ち抜く条件とは?
グループ戦の趨勢を決しかねないこの開幕戦で重要になるのは、マリーですら未だ手を焼く、ユニークなコート環境やサーフェス(コートの種類)への適応だろう。実はこのツアーファイナルズは過去2年間、1回戦(各選手にとっての初戦)の試合は全て、ストレートで決着がついている。それも、あまり競ることのない、ワンサイドゲームと言ってよい内容だ。 この現象についてロジャー・フェデラーは、去年、次のように語っていた。 「ここのコートは独特で、サーフェスはかなり遅い。だから慣れも重要になる。特に、ベースラインからの打ち合いを得意とする選手同士の場合は、片方の選手が先に慣れてリズムを作ると、実力差以上に一方的なスコアになることがある」 ならば錦織の勝機も、いかに遅いコートに相手より先に慣れ、ストローク戦でリズムをつかむかに掛かってくる。あるいは、今季の錦織が積極的に取り入れているネットプレーが、勝利への扉を開ける鍵となるかもしれない。強打自慢相手に遅いサーフェスでネットに出るのはリスクも高いが、ワウリンカという選手は、一つの試合でも大会全体で見ても、ややスロースターターな傾向がある。その相手の出鼻をくじくことで、主導権の掌握もできるだろう。 不確定要素も多い中で迎える、全米王者との初戦。その後に控える戦いは、バーゼル大会決勝のリベンジマッチに、新生世界ナンバー1への挑戦――。 目の前に続くのは、厳しい道のりなのは間違いない。だが、一見“死の組”に見える強者の群れは、錦織の闘争心を掻き立てる薪ともなる。いずれの戦いにも実力と綾で織り成す見所があり、ライバルたちと重ねてきた歴史と物語りがあり、そして勝機があるのだから。 (文責・内田暁/スポーツライター)