被災地に〝移住の受け皿がない〟能登地震から7カ月 空き家不足 移住者来れず
多くが全半壊 住宅確保急務
能登半島地震の被災地で、空き家が“不足”する異例の事態となっている。空き家は管理が行き届かず劣化しやすいため、地震で全半壊した物件も多い。解体が進めば「放置空き家」の対策にはなる一方、移住者らの住まいの受け皿となってきた「使える空き家」まで失われる恐れがある。地震発生から7カ月がたち、復興の担い手として外部人材の呼び込みが議論される中、住宅の確保が課題となる。 「住宅の9割以上が被災した。空き家の状態はもっとひどい」 甚大な被害を受けた半島先端の石川県奥能登地域。人が住む家屋以外を指す「非住家被害」のうち、空き家や納屋、蔵などの被害は、奥能登4市町だけで2万3057棟に上る。穴水町観光交流課の移住・定住担当は「震災後、使える空き家がなくなった。住まい不足を実感している」と話す。 住宅は半壊以上の認定を受けると公費解体の対象となる。同町では地震後、空き家バンクに登録していた物件のうち10軒が公費解体で登録抹消となった。半島最先端の珠洲市でも、震災前の2023年12月時点で約90軒がすぐに入居可能だったが、「現時点で少なくとも半分の物件が公費解体となる見込み」(市企画財政課)だ。 移住者を雇って農家や飲食店などの事業者に派遣する特定地域づくり事業協同組合では、住まいの確保が喫緊の課題だ。同市の組合で事務局長を務める糸矢敏夫さん(69)は「人手が欲しいという声が事業者から上がっているが、住宅が保障できず採用を増やせない」と頭を悩ませる。 一部損壊で解体にならない物件も、屋根や基礎を修繕しなければ危険で住めない。しかし、空き家の所有者が既に県外に出ていたり、自分の住む家も被災したりして、空き家の管理まで手が回らないという。 県は、復興計画の柱に関係人口の創出を位置付けている。「地域の復興には、新しい風を吹かせる若者や移住者の存在も必要だ」と話す糸矢さん。復興計画を絵に描いた餅にしないためにも、「仮設住宅が被災者に行き渡ったら移住者にも開放するなど、外部人材を呼び込める住まいの確保が急務だ」と訴える。 輪島市や能登町では、空き家を被災者へのみなし仮設にしたり、復興事業者が社宅として買い上げたりする事例が出てきている。まず避難で地域外に出た住民を呼び戻したい考えだ。ただ、「地震で瓦が落ちたまま放置された空き家も多く、雨漏りで建材が傷み始めている」(穴水町)と、今後さらに被災物件が増える可能性もあり、対策が急がれる。 (島津爽穂)
日本農業新聞