「アイドルマスター」とVTuberの交流に、様々な去就――年度末のバーチャル業界を振り返る
■めぐり合う「アイドルマスター」とVTuber にわかに、VTuberと「アイドルマスター」の交流が始まっている。まず、「にじさんじ」発のユニット・VΔLZが、『アイドルマスター SideM』とコラボした。VΔLZの弦月藤士郎、長尾景、甲斐田晴が、天道輝、桜庭薫、柏木翼と共演し、「アイドルの心得」を3本勝負形式で学ぶという動画が投稿されたのだが、その様子はあまりに自然。こうしてVTuberとキャラクターが共演している光景は、なかなかにインパクトがある。 【画像】アイドルマスターとのコラボを果たした星街すいせい 「ホロライブ」でも、所属メンバーの星街すいせいが6周年記念配信にて、『アイドルマスター シンデレラガールズ』の高垣楓と共演を果たした。星街すいせいは『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』でプレイアブルキャラとして出演しており、まさに相互でタイアップを果たしている形だ。VTuberとキャラクターの共演もここまでビッグネーム同士が成立する段階に入ったと思うと、業界初期から眺めている身としては感慨深い。 星街すいせいの新曲「ビビデバ」のMVも非常に興味深い。360度カメラで収録した実写とアニメーションを融合する手法的な面白さと、「バーチャルな存在が現実にいる」という構造を、決してドラマチックに描かない演出が白眉で、あえて言えばある種の“グロテスクさ”すらある。星街すいせいというアーティストの強度、そしてVTuberカルチャーの成熟を示すマイルストーンとなるだろう。 翻って「アイドルマスター」では、アイドル育成プロジェクト・vα-livの最終結果が明かされた。結果は、多くのユーザーからの支持を得て、候補生3人全員がアイドルデビューが正式決定。「アイドルマスター」とVTuberのはざまにあるような実験的試みは、最高の結末を迎えた。彼女たちの所属先は、『THE IDOLM@STER Dearly Stars』に登場した876プロダクション。まさかの接続を果たしたvα-livは、さらなるステージへと歩みを進める。 ■「ぽこピーランド」一周年と、独自の路線を征く個人勢の星・ピーナッツくん 『VRChat』に建設されたぽんぽこ&ピーナッツくんのテーマパーク「ぽこピーランド」は、開園一周年を迎えた。一年間に訪れた人数は18万人とのことで、VRChatワールドとしてなかなかの大台に乗っている。 一周年を記念したアップデート企画も発表されており、第1弾アップデートとしてランドが夜仕様になった。夜の遊園地というだけでもテンションが上がるが、なにより2時間おきに開催される花火とドローンによるパレードが目玉だ。さらに期間中は毎日開催されるという太っ腹ぶり。ぜひ一度は目にしてほしい。 そして、ピーナッツくんは4thアルバム『BloodBagBrainBomb』を発表した。さらに、東京、愛知、福岡、大阪を回るZEPPを巡る全国ツアーの開催も明かした。個人活動の限界に、そしてVTuberの限界に挑み続ける、一人のヒップホップアーティストの晴れ舞台は7月に開催予定だ。 ■始動、継続、転換、終了――様々な去就が伝えられるVTuber業界 年度末ということもあり、VTuber業界には去就の話題もあふれた。まず、埼玉県では春日部つくしの埼玉バーチャル観光大使の任期継続が決まった。茨城県公式VTuber・茨ひよりも来年度の活動が決定したとのことで、ローカルVTuberの根強さは今年も健在だ。 新興勢力として、Brave groupからは初の男性ユニット・YUMENOSが始動した。正式な始動は4月。男性VTuber4人で構成されるユニットで、マンガコンテンツとの同時展開が予定されている。 電脳少女シロを有するアップランドの新規ユニット・ぶいぱいでも、2期生のデビューが発表された。先んじて1名が活動を開始し、3月31日に初配信を行っている。1期生も全員が3D化に至り、1stライブ『白鬼夜行』を開催するなど、その動きは順調そうだ。 あおぎり高校に一時的に所属していたエトラは、同グループへの正式所属が決定した。嫁ノ萌美の所属も決定し、いわゆる「エイレーンファミリー」から2名があおぎり高校へ転籍する形となった。エイレーンファミリーは初期VTuberムーブメント勢力の一角にいつつも、直近ではエイレーン本人が大きなトラブルに巻き込まれており、いろいろと注目を集めていた。ひとつの転換点とも言える動きだろう。 かつて「バーチャル蠱毒」と呼ばれたプロジェクト「Avatar2.0」からは、結目ユイと水瀬しあの2名が退所し、フリーランスへと転向することが決定した。かつての九条林檎に近い転換だろう。バーチャルタレントの存在を維持したまま、所属だけを変更することが可能な流れは、着実に強まりつつある。このまま業界のスタンダードとなるだろうか。 タレントビジュアルのアップデートが続くななしいんくからは、獅子王クリスの活動終了が発表され、かつての「Sugar Lyric」初期メンバーは龍ヶ崎リンのみとなった。タレントから運営メンバーへと転向した大浦るかこも運営から離れることが告知され、また少し寂しさが募る。 Kizuna AI株式会社では体制変更が発表された。代表取締役が新井拓郎氏から大坂武史氏へ交代したほか、アドバイザーを務めていた春日望が任期満了で退任に至った。キズナアイの音声を提供していた春日望のアドバイザー退任にはそこそこ大きな反応が見られたが、大坂氏のコメントからは「キズナアイへの音声提供」はまだ続くようにも読み取れる。とはいえ、キズナアイの「スリープ」解除がいつになるかは、まだまだ読めない。 様々な始動、継続、転換、そして終了が折り重なるように起き、3月が終わった。4月を迎え、バーチャルな業界も新年度が始まる。
浅田カズラ