地位、年齢が高いほどリスクを認めない!「津波対策」を却下した東電上層部の「歪んだリスク認知」を検証する
津波地震「30年で20%」という評価をどう見ていたか
政府の地震調査研究推進本部(地震本部)は2002年、 三陸沖北部から福島県沖を経て房総沖に至る南北800キロほどの日本海溝近辺のどこでも津波地震が発生する可能性があると指摘し、その発生確率を今後30年で20%程度と見積もる長期評価を発表した。 土木学会の原子力土木委員会の津波評価部会は2004年度と2008年度の2回にわたって、どの程度これを確からしいと考えるかを関係者にアンケートした。福島第一原発の津波評価を担当する土木調査グループの東電社員3人は、年度は異なるもののこのアンケートに答えたことがあり、その回答が刑事裁判で証拠として採用されていた。
その回答によると、地震本部の見解に対し、土木調査グループマネージャー(2008年7月末当時49歳)は2割の賛意を示し、その部下にあたる課長(同44)は3割の賛意だった。他方、主任(同36)の賛意は9割にものぼった。つまり、上の2人は、福島沖では津波地震が起きないとの見解への賛意のほうが大きかったが、下の一人はそれと逆で、福島県沖で津波地震が発生する可能性を指摘する地震本部の見解にほぼ全面的に賛成だった。 東電の上層部に、地震本部の見解に少しでも賛意を示す人は皆無だった。 地震本部の見解について、担当の原子力設備管理部長(同53)は「荒唐無稽と言う先生もたくさん」いるとして設計には使えないレベルの見解だとみなし、担当副社長(同62)は「ラディカルな見解を取りまとめている」と同部長から聞いたと振り返った。 実際には、土木学会のアンケート結果によると、地震本部の見解への賛意が地震学者の回答の過半を占めていた。他方、東電の上層部で共有された見方はそれと異なり、地震本部の見解を異端視していた。
津波に「素人」の幹部が、現場の「専門家」の提案を却下していた!
福島第一原発での津波対策工事について、土木調査グループの3人はそろって「不可避」と認識していた。 地震本部の見解について、土木調査グループの主任と課長は、福島第一原発の津波想定に取り込むべきだと考え、グループマネージャーは、工学的には取り込む必要はないものの、原子力安全・保安院の審査を通すためには取り入れざるを得ない、と考えた。2008年6月、土木調査グループは会社の上層部に津波対策工事を提案した。 津波の「素人」が、現場の「専門家」の提案を却下してしまっていた東電。スローニュースでは、組織のどこに問題があったのか、その構造をより詳しい記事を配信している。
奥山俊宏