追悼 坂本龍一さん 「あんな大人になりたい」と素直に思えた対象だった『ラストエンペラー』『戦場のメリークリスマス』
1989年に漫画家デビュー、その後、膠原病と闘いながら、作家・歌手・画家としても活動しているさかもと未明さんは、子どもの頃から大の映画好き。古今東西のさまざまな作品について、愛をこめて語りつくします!(写真・イラスト◎筆者) 【写真】さかもとさんの漫画 ボウイの最期と美しいキスシーン * * * * * * * ◆「あんな大人になりたい」と素直に思えた対象 「坂本龍一さんが死去」 日本中にニュースが駆け巡ったのは2023年4月3日。1月には高橋幸宏さんが永眠。ショックをうけたのは、私だけではないはずだ。 青春期、YMOの曲を聴き、スネークマンショーに笑い、「ライディーン」で踊った。「い・け・な・いルージュマジック」で化粧をして歌う姿、「君に、胸キュン。」みたいなポップスも忘れられない。YMO(細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一)は私たちの憧れだったし、数少ない、世界に通用するアーティストだ。「教授」と呼ばれた坂本龍一さんは特に、映画音楽で世界的な評価も受けた。素敵だったのは、彼らはどんなに売れても尊大になることがなかった点。 政治家や官僚には絶対いない「あんな大人になりたい」と素直に思えた対象だった。なのに突然、2人もいなくなった――――。 2023年は、私たち昭和35年から45年生まれくらいの世代にとって、「坂本ロス」の年だったと思う。「戦場のメリークリスマス」を聴きたくてYouTubeを検索すれば900万回を超える再生数。世界が教授の死を悼んでいると思った。彼の功績を紹介したくて『戦場のメリークリスマス』を取り寄せた。『愛のコリーダ』『青春残酷物語』などで高名な、大島渚監督作品で、私が高校生の1983年公開。
◆ビートたけしが「巨匠」に化けるきっかけになった映画 ジャワ島にあった日本軍の捕虜収容所を舞台にし、捕虜に対する扱いの苛烈さを描いている。坂本龍一は日本人将校ヨノイ。ビートたけしは軍曹のハラ。かのデヴィッド・ボウイが、抗わないけれど従いもしない静かな愛をたたえた捕虜・セリアズを好演。彼はクリスマスに独房から釈放されるも、やがてある事件の後に頭から下を地中に埋められ、衰弱死する。変な言い方だが、「世界一美しい生首」に見えた。 戦後日本に戻ったヨノイはすぐ処刑され、ハラも明日の死刑を待っていた。そこに、ジャワ島で共にクリスマスを過ごした「ミスター・ローレンス」がやってきて2人は思い出を語り合う。その時にハラが笑顔で口にする「メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス」がそのまま、あまりにも有名な坂本龍一によるテーマ曲のタイトルとなる。 坂本龍一とデヴィッド・ボウイのキスシーンばかりがやたらと取りざたされ、ビートたけしが「巨匠」に化けるきっかけになった映画。大島渚にとっては最大の興行的成功をおさめた作品だそうだ。 当時は観に行くお金がなく、今回やっと映画を観たのだが、エロティックなどころか、人間の弱さ、卑劣さ、戦争や権力が人間をいかに狂気に駆り立てるか見つめた映画だった。 ホモ・セクシュアルを思わせる描写はそこそこにある。でもそれが何だろう。むしろ次々に起こる暴力事件の連鎖に対する、ボウイら西洋人捕虜の宗教的ともいえる態度が印象的だ。ある意味、人道的に愚劣な日本人を教育するという東京裁判史観だと思うが、そこは今回の論点ではない。
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