いまこそ響く坂本龍一の言葉。TBSドキュメンタリー映画監督が伝えたい平和へのメッセージ
平和を求める側が、届く言葉を探す――。坂本の言葉を受け取って
―映画の紹介文には「音楽家はなぜ社会的発信を強めたか」とありますが、監督はなぜだと思いますか。 金富:それについては映画を見た方に考えてもらえればいいなと思います。でも、自分が撮ったものを見返して思ったのは、当時から坂本さんの言葉の熱さは変わってないということでした。 逆に世の中のほうが変わったから、坂本さんが言葉を強めたように見えた……つまり、坂本さんが変わったように見えたのかな、という気もしています。 坂本さんは90年代後半ぐらいから気候変動についても語っています。「温暖化で大変なことになるよ」と言っていたのですが、たぶんね、我々も含めてその意味がよくわからなかったんですよね。世の中の受け止めとして「いくら何でもそんなことないんじゃない?」といったような。でも、ここ2~3年の夏の暑さを見ると、どう見ても変じゃないですか。 だから、あのときに坂本さんが訴えていたことは正しかったと、いまになって良く分かる。情報のキャッチと、危機感の持ち方が早かったのだと思います。 ―個人的には、坂本さんは言葉と音楽の両方で社会へメッセージを放っていたのではないかと、映画を拝見して感じました。あらためて、監督の仕事の軸や、この映画をつくられた軸を言葉にしていただけますか。 金富:僕は、比較的硬いニュースを扱う番組を担当してきました。いまでも『サンデーモーニング』という番組で、見てもらうためにどんな工夫をすればいいかと、ずっと考えています。社会的意義があるから、ニュースはそのまま流せばいいという考え方もあるかもしれません。しかし、若い人にももっと見てもらいたい。そのために工夫をしています。 VTRの構成をはじめ、工夫してうまくいくこともあれば、うまくいかないこともあります。坂本さんの言葉で言うと「届く言葉を探さないといけない」と思います。「平和を求める側こそがいろいろなことを考え、どうしたら人に伝わるかを考えないといけない」とおっしゃっていたことは、自分自身のテーマとしても考えるところでしたね。 金富:坂本さんというフィルターを通したら戦争のことをもっと伝えられるかもしれないと、どこかで思ったのかもしれないですね。坂本さんの言葉だったら、みんな聞いてくれるかもしれない、と。 時代の人だった。だから我々はTBSとして多くの人が入れ替わり立ち替わり、坂本さんと一緒に何かつくれないかっていうことを考え、そして坂本さんにも応えていただいたのかな、と思います。 本当はエンディングを、さまざまな人の証言も取材しようかなと思っていました。でもつくりながら、やる必要ないなと思ったんです。過去に撮影した坂本さんの言葉を伝えて、次の世代につながっているっていう雰囲気にして。あとは、見てくださった人に考えていただくのがいいのかな、と思いました。
インタビュー・テキスト by 今川彩香 / 撮影 by 前田立 / 編集 by 佐伯享介