町の電気屋 御用聞きで、年商9000万円「家電メーカー弱体化が追い風に」
町の電気屋は御用聞き
危機感を持った片山さんは、“脱・下請け体質”を掲げ、受注内容を根本的に見直した。具体的には、電気工事のみの受注は断り、工事と商品の販売をセットで行うという方針に切り替えた。 「業者からエアコン設置の依頼があったときは、取り付け工事だけでなく、エアコンの販売も行うということです。また、私たちのような家族経営の商店が生き残っていくためには、地域に根ざした商売をする必要があります。例えるなら、『サザエさん』に出てくる三河屋さんのサブちゃん。御用聞きにも徹するようにしました」 片山さんが「共栄デンキ」で働くようになり11年が経過するが、現在、その業務は多岐にわたっている。あくまでも家電販売と電気工事がメインだが、水道の水漏れ修理や便座の交換などのリフォーム業務も展開している。また、物置の組み立て・設置の注文もあるという。 「『玄関に手すりをつけてほしい』と高齢のお客さんから依頼やカーテンの取り付けもやりましたね。最近も照明の交換で60代のお客さんの自宅を訪問したら、『4Kテレビを買ったんだけど、NetflixやAmazonビデオの視聴方法が分からない』と相談されたんです。一通り説明をしたら、お客さんからWi-Fiの導入を頼まれました。お客さんとより密接な関係にあるのは、私たちのような電気屋の大きな強み。訪問した際の何気ない会話から、冷蔵庫や洗濯機などの買い替えにつながることも少なくありません」
家電メーカーの弱体化が追い風に
家電メーカー各社の製品を取り扱う量販店が出現する以前、町の電気屋は、「パナソニックの店、東芝の店」というように、家電メーカーの系列店として、単一メーカーの製品を取り扱うのが一般的だった。 「もともと、うちは日立系列の電気屋なのですが、数年前からは別ルートの仕入れネットワークを活用することで、各社の製品の取り扱いをはじめ、量販店と同等の価格で販売を行っています。一方、メーカーの営業担当者には『この値段だったら仕入れない』と強く主張することもできます。お客さんのところに電気工事に行った際に、チラシを渡したら、『こんな値段で買えるの!?』と驚かれることもあります。家電メーカーの力が弱体化していることで、逆に、町の電気屋の商売は格段にやりやすくなっているんですよ」 町の電気屋は品ぞろえが悪く、高いというイメージがあるが、さまざまな商品を量販店並みの価格で購入することが可能だというのだ。しかも小回りの良さを生かし、客のニーズに幅広く対応している。こうした町の電気屋の特性を発揮することで、売上アップを実現しているのだ。 「量販店やネット販売ができないことをやる。そこをきちんと掘り起こしていけば、必ず需要はあります。私自身の年収は何千万円もありませんよ。サラリーマン時代よりちょっといいくらいです。でも、町の電気屋はやり甲斐もあるし、子育てにも積極的に参加することができた。時代に合った経営努力を続ければ廃れない商売だと思っています」 片山さんには小学生の長男がいるが、「将来は3代目として継がせたいか?」とたずねてみた。 「なにもすることがないから、後を継ぎますというのは困りますよね。これから、いろいろ経験して、さまざまな選択肢の中から、最終的に電気屋を選んでくれたら、それはやっぱりね。親としてはうれしいですよね」 片山さんは目を細めて笑うのだった。 (取材・文・写真:大崎量平)