「困ったら消費増税」から脱却できる? 石破政権の「経済政策」、注目すべきポイントとは?
<経済政策として地方創生や教育無償化などを打ち出している石破首相だが、裏付けとなる財源をどうするのかによって日本経済の未来に大きな影響が及ぶ可能性が>【加谷珪一(経済評論家)】
石破新政権の誕生で、財源に関する議論の活発化が予想される。石破氏は経済政策として地方創生や教育無償化などを打ち出した。また岸田政権の各種政策を引き継ぐ方針も示しており、防衛費の増額や子育て支援策拡充も予定どおり実施するとみられる。 ●日本だけ給料が上がらない謎…その原因をはっきり示す4つのグラフ これらの政策を着実に実行するには裏付けとなる財源が必要だが、岸田政権は一部について手当てを行ったものの、残りの財源については手付かずの状況だ。 石破氏は財政健全化を主張しており、国債発行による財源確保は選択しない可能性が高い。また現実問題として、インフレが進むなか、国債を大量発行すれば物価上昇に拍車がかかるのは経済学の理論上、当然の帰結であり、多くの国民が生活苦を感じるなか、物価をさらに押し上げるような選択肢は現実的とは言えない。 これまで財源に関する議論は、立ち上がっては消えるということの繰り返しだったが、そうなっていた最大の理由は、想定される財源として消費税にばかり焦点が当たっていたからである。 消費税は、納税するのは事業者だが、実質的には国民の日常的な支出に課税する税であり、最も徴収しやすい税の1つと言える。所得税や法人税など、他の税が存在しているにもかかわらず、消費税ばかりが増税議論の対象となってきたのは、ひとえに「取りやすい」という部分が大きかったと考えられる。 加えて経済界には法人税の増税を回避したいという強い意向があり、社会保障の財源として消費増税を強く主張してきた経緯もある。 だが、今の日本における政治環境において消費税を増税するのは至難の業であると同時に、賃金が上がらず消費が著しく低迷するなか、消費税を増税すれば景気悪化に拍車をかけるのはほぼ確実である。 ■石破政権が見据える新たな財源は? 本来、あらゆる種類の税を含めて財源の議論が必要だったにもかかわらず、その議論を避けてきたというのが実際のところだろう。その意味で石破氏が財源に関して言及したことはそれなりに評価して良いと考える。 石破氏は、必要となる財源の具体例として金融所得課税の強化と法人増税に言及している。岸田政権も発足当初は金融所得課税の強化を打ち出したが、株価が下落したことや証券業界からの反発が大きかったことなどから、事実上、撤回に追い込まれた。 ■安倍政権下で3度も減税された法人税、その効果は? 石破氏に対しても、総裁選の段階から新NISA(少額投資非課税制度)など、貯蓄から投資へという流れに水を差すのではないかとの指摘が寄せられており、石破氏はこれに対して、多額の資産を持つ富裕層に限定して課税する方針を示すなど、軌道修正を行っている。 同時に石破氏は、企業が空前の内部留保を蓄積している現実を踏まえ、「負担能力のある法人には一定の負担をお願いしたい」との発言も行っており、法人増税も選択肢の1つとしたい意向だ。 日本の法人税は安倍政権下で3度も減税されており、相当程度、低い水準まで下がっている。企業は減税によって得たキャッシュを設備投資に回さず、多くを内部留保としてため込んでおり、減税の効果が十分に得られたとは言い難い。 法人税と金融所得課税の強化によって財源を確保し、中間層の底上げに充当するというのは、中長期的に見た場合、消費を増やす効果をもたらすことになるだろう。