<情熱の理由>甲子園への私の流儀/上 けが防ぎ、勝てる体に 国学院久我山・尾崎直輝監督
◇情熱の理由(わけ) 「自分のような野球人生を歩んでほしくない」。そう話すのは、今春のセンバツに出場する国学院久我山(東京都杉並区)の尾崎直輝監督(31)だ。かつて同校野球部のマネジャーだった。ハイパフォーマンスを出しつつ、けがのリスクを減らす指導で、就任から8年半で2度目の甲子園に臨む。そこまでの道のりには、故障で選手としてのプレーを諦めた自らの経験があった。 アクシデントに見舞われたのは1年生部員の時だった。練習に励む中で肩と腰を故障した。日常生活に深刻な支障が出るほどではなかったが、投球でもスイングでも思い切ったプレーができない。マネジャーに転向し、2年生から学生コーチも兼務したが、3年の夏に引退するまで選手に復帰することはなかった。 国学院大に進学し、健康体育学科でスポーツにおける正しい体の使い方を学んだ。「高校時代に知っていたら、選手から離脱せずに済んだかもしれない」。接骨院通いや筋力トレーニングなどで故障も克服した。 大学を卒業して2013年4月、母校・国学院久我山の教員となった。赴任と同時に野球部のコーチに就き、同年8月には監督を任された。 だが、「そこから5年間、なかなか勝てなかった」。結果を出すために何が必要かと考えた。そうして19年4月に踏み切ったのが、医学知識も備えて専門的な立場で助言してくれるアスレチックトレーナーとの契約だ。「選手が身体的な壁にぶつかった時に、野球をやめようと思わせたくない」との考えもあった。 トレーナーは選手たちに故障を予防する体の使い方を教え、けがをした場合にはリハビリやトレーニングを指導する。選手はトレーナーが所属するジムの提携病院で受診できる契約にもしている。 「まずは選手にけがをさせないことが大事。もし、けがをしてしまっても適切なリハビリで機能を改善していく。そうすることで、選手たちが再びけがをしにくくなる。体の使い方がうまくなることでハイパフォーマンスを出せるようにもなっている」 それまでの鍛錬も奏功してチームはその年、28年ぶり3回目の夏の甲子園出場を果たし、初勝利も挙げた。その後も同校の部員たちは障害予防やリハビリを相談できるトレーナーがいる安心感から、のびのびと練習に取り組む。多くがプレーの改善に取り組み、投球フォームを変えてリズムがつかめるようになったという部員もいる。尾崎監督も自分のスパイク、グラブ、バットを持ち、選手たちの練習に交じりながら指導する。 マネジャーから監督となり、甲子園出場チームを育てたという自負もある。「仮に選手の道を断たれたとしても、こんな戦い方もあるんだよと伝えたい」。グラウンドで声を上げる部員たちを見守りながら言う。【小林遥】 ◇ 兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で18日に第94回選抜大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)が開幕する高校野球。全国各地の球児や指導者らが、困難な状況であっても情熱を燃やすのはなぜなのか。まずは特色のある指導で工夫し、球児らを甲子園に導こうとする監督の「流儀」を紹介する。