オアシス再結成にファン熱狂。デビューから30年以上経ったいまも人々が夢中になる理由
オアシスが他のバンドと一線を画す要素
90年代は、社会の閉塞感を陰鬱なサウンドで体現したアメリカのグランジロックや、センスと手際の良さで様々なジャンルをまとめたミクスチャーロックやアートロックなど、多くの個性豊かなバンドが活躍する時代でした。しかし、高度な音楽性を追求していくなかで抜け落ちてしまったものがある。それが、歌えるメロディだったのです。 見ず知らずの人間同士をつなぎ合わせる大合唱。この音楽への原始的な情熱を掻き立てる力こそ、オアシスが他のバンドと一線を画す要素なのです。 「Don’t Look Back In Anger」、「Wonderwall」、「Whatever」、「Live Forever」、「Champagne Supernova」、「Morning Glory」などなど。これほどまでに歌える曲を持つバンドは他にあるでしょうか? そして、この歌えるメロディを鍛えたものこそが演奏力の限界です。上記のヒット曲は、あるコードフォームを覚えればどれも弾けてしまいます。G、Eマイナー、C、D。基本的にこの4つを覚えていれば誰でも演奏することができます。オアシスのヒット曲は、ギターの基礎中の基礎から生まれたのですね。ギターのネックに取り付けるカポタストという便利な道具を使ってキーを変えれば、オアシスの代表曲はすべてカバーできるでしょう。
能力の限界を逆手に取って最大の長所に
凝った和音によってアクセントをつけられないので、必然的にメロディの重要度が増します。言葉の持つリズムを最大限に生かしたメロディのデザインで曲の骨格を表していく以外の戦い方がない。ノエル・ギャラガーのソングライティングは、この一点突破にかけたのです。 これは、「White Christmas」や「God Bless America」などで知られる20世紀のアメリカを代表する作曲家、アーヴィング・バーリンに通じるところがあるのではないでしょうか。バーリンもまたピアノの演奏が上手ではなかったので、黒鍵を含む和音を弾くことができませんでした。そこで黒鍵を押さなくてもキーを変えられる特別な器具を取り付けることで、バリエーションをつけられるようになったといいます。 ノエル、バーリン、どちらも能力の限界を逆手に取って最大の長所としたメロディメーカーなのです。良いメロディはトレンドや時代を超えて生き残ります。1994年と1995年のオアシスは、まさにそれを成し遂げました。 今回の報道以降、解散から15年経ってもファンの熱量が衰えていないことに驚かされます。オアシス再結成は決してノスタルジアではありません。 歌の力は、したたかに生き続けるのです。 文/石黒隆之 【石黒隆之】 音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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