押切蓮介と白石晃士監督が明かす、『サユリ』実写映画化の舞台裏「お化け相手でも、戦わないとおもしろくない!」
押切蓮介の同名ホラー漫画を、『ノロイ』(05)や『貞子vs伽椰子』(16)などで知られる白石晃士監督が実写映画化した『サユリ』が8月23日(金)より公開となる。ホラー漫画とホラー映画、それぞれのジャンルの第一人者同士がタッグを組んだ本作の公開を記念し、原作者の押切と白石監督が対談。実写映画化までの道のりを明かした、ホラーファン必読のインタビューをお届けする。 【写真を見る】ファンキーすぎる!70歳の大女優・根岸季衣がパンクな“ばあちゃん”を体現 本作は、中学3年生の則雄(南出凌嘉)ら3人の子どもたちとその両親、祖父母の神木家7人家族が夢のマイホームへ引っ越してくるところからはじまる。中古の一軒家での新生活に胸を弾ませていたのも束の間、則雄は隣のクラスの霊感を持つ女生徒・住田(近藤華)から「気を付けて」と話しかけられ困惑。そんな矢先、理不尽な出来事が神木家を次々と襲い、家族が一人ずつ命を落としていく。呪いの根源は、この家に棲みつく少女の霊“サユリ”だった。ついに則雄にもその影が迫るなか、認知症だったはずの春枝ばあちゃん(根岸季衣)が覚醒し、サユリを地獄送りにするための壮絶な復讐劇の火蓋が切って落とされることになる…。 ■「原作を読んで『自分が撮らなきゃ』と使命感に駆られました」(白石) ――白石監督は原作「サユリ」を読んだ後、「自分が映画化すべきだ!」と思われたそうですね。常にバケモノと人間の戦いを映像化してきた白石監督のツボになったポイントは? 白石「『カルト』でやったような、前半のホラー的展開とそれを覆す後半の逆転が明確なところですね。それから“怪異”と”暴力”の親和性。『あ、これ、自分が撮るような映画だな』て(笑)。それに読んだ後、ランニングをしたくなったんですよね。だから人にエネルギーを与える漫画だなと。私も常々、そういった作品を作りたいと思っているので…もはや作品に惚れ込むというより、『いや、自分が撮らなきゃだめでしょ?』と使命感に駆られたんです」 ――押切先生に伺います。「サユリ」は「ミスミソウ」に続き、所謂“黒押切”とよばれる作品の映画化です。こういったホラー作品を描かれる時の気持ちというのは? 押切「お化けに対する反骨精神ですね。これはデビュー当時からまったく変わっていません。Jホラーに対する反発心といいますか。幽霊が人間に圧勝し続ける状況がずっと疑問だったんです。『生きている人間の方が強いんじゃねぇの?』と考えているのですが、惨敗続きじゃないですか。 デビュー当時はギャグ漫画として、その反発心を描いてきたのですが、一回ギャグ抜きで本当に人間がお化けを圧倒する作品を描いてみたいと考えていました。そこに幻冬舎コミックスさんから『なにか描きましょう』と声がかかって、すぐ思いついたのが『サユリ』でした。多分、幻冬舎コミックスさんは『ハイスコアガール』みたいな作品を求めていたんでしょうけど(笑)。全体の構成も最初からできあがっていたのでネームに困ることもなくノリよく描きましたね」 白石「描いている時になにか怖いことがあったとか言ってませんでした?どこかで見たような…」 押切「え?いや…お化けはでてこなかったですけれど。だけど、ふと怖くなる時はありましたね。別に怖いコマでもなく、食卓を描いている時に『あ、怖い』みたいな。描くことに対する強迫観念なんですかねぇ…。それから住田の顔を描いている時に、ジーッとみていたら動きだすんじゃないか?と。 『サユリ』ではないほかの作品で怖い経験をしましたね。ある夜 “怖い系”の金縛りに遭ったんですよ。『ウゥッ!ウゥッ!』となにかの気配を感じるやつです。でも、俺、金縛りに負けたくないので『気持ちいい…金縛り気持ちいい…』なんてブツブツ言いながら、抗って起きたんですよ。そしたら怪談の原稿がバラバラバラと机の上から落ちたんです。『ハイスコアガール』の原稿ならいいんですけど、実録系怪談の原稿だと気持ち悪いじゃないですか。悔しいから写真とってSNSに上げましたよ」 白石「僕が見たのはそれかも!」 押切「『サユリ』と関係なくてスミマセン。なんなら、これ『サユリ』の話に変えて掲載してもいいですよ(笑)」 ■「映画版のオリジナル部分も、すばらしかったです!」(押切) ――映画版『サユリ』のビジュアルですが、少女のイメージが強い原作に対してヘビーな風貌ですね。 白石「少女は少女でありつつ、新しいホラーイメージキャラクターが欲しかった。加えてサユリが何故、引きこもりになってしまったのか?を映画版ではさぐるのですが、そこからあの姿に必然的に結びついたんです」 ――引きこもりとなった理由もなかなかヘビーです。 白石「原作では描かれていない部分ですが、実写となると気になっちゃったので…」 押切「読者の想像にまかせてサユリの家庭事情はわざと描かなかったのですが、映画は映画でハッキリしたオリジナリティがあってすばらしいと思います。サユリが姿形を変えながら襲いかかってくる感じが良いんですよ!」 白石「なぜ違う姿が出てくるのかも、物語の謎めいたフックになっていますからね」 ――住田の出番が増えていて、則雄がまっとうな青春をしていますね。とある“台詞”を含め、押切先生の描く男の子像とは少し違うように見えました。 押切「そうかな…そうだったとしたらそれは白石ワールドの影響ですね!」 ――最初に拝見した時、あの“台詞”には正直なところちょっと引いてしまいまして(笑)。どこから沸いてきた台詞なのでしょうか? 白石「いや、あれは私が小学生の時に女の子から言われた言葉で」 ――そうなんですか? 白石「少しませた女の子で、きっとからかわれていたんでしょうけど『白石クン、○○○○○○○○○○○○ってどういう意味?』て聞かれたんですよ。で、『いや、知らんけど?』みたいな(笑)。それがずっと頭に残っていて。その後、高校生になって生徒会で一緒だった女子が『最近金縛りにあって怖い!』と言ってきたので、『○○○○○○○○○○○○』と唱えたら?って教えたんです。そしたら金縛りに遭わなくなったと。それで『ああ効果があるんだな』と思って今回の作品で使ってみました」 ――押切先生もどうです?次の金縛りになったら使ってみては。 押切「いや、僕は『金縛り、気持ちいいぃ!』で意地でも抗っていきますね。でも言葉は違えどスタンスは同じですよね。煽って煽って煽りまくるんです」 白石「実際この台詞自体に“生命の根源”がありますし、シリアスなシチュエーションにユーモアを持ち込む形になりますが、ユーモアこそ生命力だと思うんです。それが引くぐらいのものならなおさら霊的な存在に対して効果があるんじゃないかな。そういう意味では映画版『サユリ』は魔除けにもなると思いますよ」 ■「映画には泣ける部分が3箇所もあって、『俺、こういうの求めてたんだな』って」(押切) ――押切先生は残酷描写についてなにか思うところはありますか? 押切「残酷描写については相当耐性のあるほうです。『サユリ』については漫画との相違点もありますが、映画的な表現ですし、前半の絶望感からの後半に続くばあちゃんの奮起のギャップもしっかりしていて、気に入っています」 ――ばあちゃん役の根岸さんのインパクトは原作以上に強烈でしたね。私は銭湯で則雄と並んでいる場面が好きなのですが。 白石「そのあとの、車の中で音楽を聴きながらノリノリになるシーンを最初に撮ったんです。あれは脚本に書いていないことを、根岸さんの解釈でやってくれたんです。テンションが高すぎてスタッフが『この後のシーン、どうなっちゃうのかな?』と心配するくらいでした(笑)」 ――白石監督も押切先生も反Jホラーの姿勢が伺えますが、やはり互いにシンパシーを感じますか? 押切「作品を観ればそれは感じますね」 白石「やられるばかりで抵抗しないというのはねぇ…。私は海外ホラーを観て育ったので『負けるとしても、戦わないとおもしろくないじゃん!』と思うんです。拮抗する瞬間のカタルシスがほしいなと」 ――白石監督はいくつか原作ものを作られていますが、『サユリ』はスムーズに進行できましたか? 白石「押切先生にもバックアップいただけましたし、さらに新しいアイディアもいただけて。原作モノは『ここだけは、変えないでほしい』と言われて、それが小さな一つの縛りのように見えて、実は脚本全体に影響することもあるのですが、今回そういうことはまったくなかったです。縛りは予算とレイティングくらいで、のびのびとやらせていただきました。『サユリ』の精神性が自分と共通していたので、原作モノという感覚はなかったです」 ――押切先生的には映画版『サユリ』はどうです? 押切「いままでJホラーで笑ったこともないし、ましてや泣かされるなんてなかった。でも『サユリ』は、笑って泣いて、もう疲弊して終わるんですよ。しかも泣ける箇所が3箇所くらいあったんですよね。それで『あ、俺、こういうの求めてたんだよなあ』て。だから原作者というより、いち視聴者として純粋に楽しめました。(白石監督を見ながら)ほんとにありがとうございます」 白石「あ、いえ、こちらこそ(笑)」 取材・文/氏家譲寿(ナマニク)