スパイダーからワンボックスまで! フィアット850 シリーズ(1) リアエンジンなイタリアの大衆車
3列シートで7シーターのファミリアーレ
850 ファミリアーレは3列シートを備え、7名の定員がうたわれたが、見た目はやや普遍的。600 ムルティプラのスタイリングは個性的だったが、スクエアなボックスボディが載っている。 そのかわり、月日を重ねても古びては見えず、キャンピングカーのベースとしても人気を獲得。1971年まで作られたベルリーナや、1972年までのクーペなどより遥かに長い、22年後の1986年までフィアットの工場は提供し続けた。 今回は、850シリーズ 4台にお集まりいただいた。真っ先に乗るべきは、グラハム・ホーン氏がオーナーの、1967年式ベルリーナ・ノルマーレだろう。筆者が10代だった頃、850を所有していた経歴を持つが、公道で乗るのは40年ぶりだ。 1960年代後半のイタリアの風景には欠くことができない、ベーシックカーの代表といえる。ドアを開くと、インテリアは至って質素。ダッシュボード上の小さなパネルに、横長のスピードメーターが収まる。 その左側に、ヘッドライト・スイッチ。ワイパーは、速度を変えられない。ステアリングコラムからは、ウインカーレバーが伸びる。フロアはラバーマットで覆われるが、アイボリーのボディカラーが各所で露出。天井の内張りも、薄いラバーシートのみだ。 ドアハンドルは、フェラーリ275と同じもの。クロームメッキされていないが。
古いポルシェ911と少し印象が重なる走り味
車重は670kgと軽く、至って活発。34psしかないから、タイヤが空転することはないけれど。シフトレバーとリアの4速MTは離れているが、ストロークは短く、ゲートを選びやすい。小さなエンジンを目一杯回す、ささやかな楽しみを謳歌できる。 防音性は高くないものの、エンジン音は殆ど聞こえない。BMCミニが積んだAシリーズ・ユニットより滑らかで、洗練されている。 起伏が続く公道を飛ばせば、古いポルシェ911と印象が少し重なる。フロントノーズは、上下の動きが大きい。ステアリングは適度に軽く、クイックで、正確に反応する。ベルリーナ・ノルマーレの印象は、筆者の遠い思い出を鮮やかなものにする。 こんな走行性能の高さを、フィアットは見逃さなかった。1965年のイタリア・ジュネーブ・モーターショーで、850 クーペとスパイダーが発表される。パワートレインやシャシーへ、しっかりアップデートを施して。 排気量は843ccと変わりなかったが、ツインチョーク・ウェーバーキャブレターと専用カムシャフト、4分岐の排気マニフォールドを与えることで、4割もパワーアップ。47psが絞り出された。発生回転域も、1200rpmプラスの6200rpmに設定された。 ホイールは13インチ。ブレーキは、850 ベルリーナでは前もドラムだったが、ディスクが採用されている。 今回ご登場願ったレッドのクーペは、スポーツクーペへ改称された、1968年以降のシリーズ2。エンジンは903ccへ拡大され、最高出力は52psへ上昇。最高速度は、143km/hが主張された。 この続きは、フィアット850 シリーズ(2)にて。
サイモン・ハックナル(執筆) マックス・エドレストン(撮影) 中嶋健治(翻訳)