肥前磁器の歴史と海外への流通など紹介 長崎大・野上教授が20年の研究成果1冊に
17世紀初めに九州北西部の佐賀の多久や有田で誕生した「肥前磁器」の国際的流通を研究する長崎大の野上建紀教授(60)=北九州市出身=が、約20年に及ぶ研究成果を著書「近世陶磁器貿易史」にまとめた。有田町歴史民俗資料館に勤めていた時期に着手した調査。江戸時代に長崎から輸出され、世界中に行き渡った肥前磁器の歴史と分布を中心に紹介している。 【写真】長崎大の野上建紀教授 野上教授は金沢大で考古学を専攻し、有田町教育委員会に就職。窯跡の発掘調査を数多く手がけ、陶磁器の知識を深めた。関心は産地から流通に広がり、2002年のカンボジアを皮切りに海外調査を始めた。 17世紀、中国・清が貿易統制を行ったため、出回らなくなった中国磁器に代わって肥前磁器が世界市場に登場。長崎から東南アジアへ渡り、イスラム商人らが西回りで欧州、スペイン船が東回りで中南米へ運んだという。 野上教授は各国の博物館などを訪ね、肥前磁器を探した。遠くは南米アルゼンチンやアフリカのケニアまで追いかけた。メキシコの考古学者エラディオさんは中南米を調査する際の協力者。今回の著書は、3年前に急逝したエラディオさんとの共同研究の成果でもある。 今後は中南米での消費の実態を調べ「陶磁器全体の中で有田の位置づけを考えたい」と話す。「陶磁の道」の研究は続く。 「近世陶磁器貿易史」は勁草(けいそう)書房から7920円。 (野村大輔)
西日本新聞