蜷川実花さんの鍾乳洞に展示される作品が話題、岡山の山間部で開催される「森の芸術祭」
来訪者も作品の一部となる
この井倉洞でインスタレーション作品を展示するのが、アルバニア生まれのアーティスト、アンリ・サラさんだ。 1974年、アルバニアのティラナ生まれのアンリさんは、現在はドイツのベルリン在住。1990年代半ばより写真や映像、音楽、さまざまなパフォーマンスを用いたインスタレーション作品を制作してきた。 サウンドと映像、空間イメージとの関係性に着目し、作品を通じてそれらを再構築していく作風だ。これまでベネチアビエンナーレなど海外の数々の芸術祭に作品を出展してきた。 香川県が主催する「瀬戸内国際芸術祭」(岡山県も一部作品の舞台)で、海沿いの古民家の中に、ドラムやオルゴールなどの楽器、映像作品を配し、それらが響き合うことで、家そのものがひとつの生きた身体のように感じられるというコンセプトの「豊島シーウォールハウス」(現在閉館中)を制作したのも、アンリさんだ。 鍾乳洞は、太古の時代から人間の営みを超えた長い年月をかけて生まれた自然の造形美で成り立っている。そんな妖しくも神秘的な洞窟の内部で何かに感応した稀代のアーティストは、デジタル技術を駆使しつつ、ライトとサウンド、映像などの新たなしかけを持ち込むことで、これまで誰も体験したことがなかった洞内探検を演出する。 ただ、井倉洞のアンリさんの作品は、洞内に設置されたインスタレーションを単に歩いて鑑賞するだけのものではない。 来訪者は、事前に用意されたデジタルシステムが埋め込まれライトとスピーカーが取り付けられたリュックを背負い、洞窟に入ることになる。導線に沿ってライトとサウンドがインタラクティブに反応し、最終地点では映像作品が洞内に提示され、クライマックスを迎えるのだという。つまり、来訪者も作品の一部となるのだ。2名以上のグループ参加が条件で、1グループに2つのリュックが貸与される。 このように手の込んだしかけを伴うインスタレーション作品だけに、混雑が予想される土日祝日は、オンラインで事前予約制になっている(公式「井倉洞」ホームページの専用予約フォームにて)。 筆者はすでにこの2つの鍾乳洞を訪ねたことがあるが、蜷川さんも言うように、それ自体が異界のような空間で、そこに2人のアーティストは何を持ち込んで、世界をどう塗り変えていくのだろうか。実に楽しみだ。 ※「森の芸術祭 晴れの国・岡山」に展示されるアート作品は、津山市、新見市、真庭市、鏡野町、奈義町にある。山間部に位置するエリアなので、点在している各設置場所への移動やアクセスはあまり便がいいとは言えないので、多くの作品を観たい場合は、会期中に運行されるオフィシャルツアーバスや会場行きバスなどを利用するか、数日間現地に留まる必要も。詳細は公式ウェブサイトhttps://forestartfest-okayama.jpで確認を。
中村 正人