もう一緒に歌えない さよなら初代ハーモニカ駅長 上田の春原さん逝く 別所線
70歳で引退するまで演奏
上田市の上田電鉄別所線の車内で団体客らにハーモニカを奏で、「ハーモニカ駅長」と親しまれた同市大屋の春原貞良さんが15日、75歳で亡くなった。利用者を増やそうと2006年に始め、70歳で引退するまで多くの人を楽しませた。優しい人柄をしのび、悼む声が広がっている。 【写真】ハーモニカを奏でる春原さん
ツアーバス 1カ月に100台以上も
同社運輸区助役の木内篤さん(59)は、物静かな春原さんが会議で「別所線に多くの人に来ていただき、笑顔で帰ってもらいたい」と熱っぽく話していたのを記憶している。演奏は好評を呼び、多い時にはツアーのバスが1カ月に100台以上来た。
おはこは「故郷」と「旅の夜風」 別所線を日本一のローカル線に
春原さんのおはこは、唱歌「故郷(ふるさと)」と昭和のヒット映画の主題歌「旅の夜風」。下之郷―別所温泉間の12分、大きく揺れる2両編成の車内を行き来して演奏した。「背中越しに聞こえてきた皆さんの大合唱を今でも覚えている。皆がすごく楽しそうだった」と木内さん。「別所線を日本一のローカル線に―という熱い思いを持っておられた。本当に残念」
妻の邦子さん(74)によると、春原さんは5月に倒れ、信州大病院(松本市)などで入院生活を続けていた。「退職後も別所線のことばかりを考えていた」と振り返る。
ハーモニカ駅長は3代目に
ハーモニカ駅長はその後も引き継がれ、20年2月には柞山(ほうさやま)恵子さん(64)が3代目に就いた。就任直後にあいさつに訪ねると、春原さんに「頼むね」と声をかけられたという。新型コロナウイルスの流行で思うように吹けない時期もあったが、フェースガードを着けて演奏を続けた。「春原さんの付けたともしびをたやすく消すわけにはいかなかった」。今は演奏区間を全線に延ばしている。