おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第30巻編】~『キン肉マン』の友情物語が大人も学べるものに昇華される瞬間~
今シリーズのダークホースとして急浮上してきたソルジャー・チームの闘いがここでとうとう決着。超人血盟軍とは一体、何だったのか? そのすべてがこの巻で明かされます。 ●『キン肉マン』30巻 レビュー投稿者名 おぎぬまX ★★★★★ 星5つ中の5 友情を大人の物語に昇華させたソルジャー 残虐チームは大将のソルジャーとバッファローマン、対する知性チームもまた大将のフェニックスとマンモスマンのちょうどふたりずつが残り、タッグマッチの様相を呈してきたところで、まずこの巻はバッファローマンVSマンモスマン、稀代(きだい)の大型超人対決から始まります。 バッファローマン最大の特徴といえばもちろん大迫力の超人強度1000万パワー。しかしそんな彼をもってしても組み合ってからの序盤、マンモスマンとの力比べは苦戦気味です。そこでバッファローマンは、先手を取って必殺技ハリケーン・ミキサーに出ようとするのですが、いきなりソルジャーが怪行動。突進をかけようとするバッファローマンの足に鉄柱を投げつけ、技への移行を阻止します。 謎の行動を見たキン肉マンは当然のごとくソルジャーを猛批判しますが、ソルジャーはそんなキン肉マンの罵詈雑言をむしろ一喝。黙って見ておけと述べたその直後、バッファローマンが技を踏みとどまったことで相手が狙った渾身(こんしん)のカウンター技の回避に成功! 結果的には一見、裏切りにも思えるソルジャーの粗暴な行動により、バッファローマンは命を救われたのでした。 決して目先だけのわかりやすい優しさにとらわれない、時に本人からどう思われようとも真に相手を思いやる気持ちこそが大切である、これぞソルジャーが提唱する新たなる友情の概念、その名も"真・友情パワー"です。 これまで『キン肉マン』がずっと友情をテーマにしてきた作品であることは言わずもがなですが、そのなかにあってなお斬新で、新しい概念が飛び出してくるというのがものすごく面白いですよね。 これまでの対悪魔超人、対完璧超人との激闘のなかでは友情か非情か、その二択のどちらが勝つかという善悪の対比構図しかありませんでした。しかしソルジャーはそこに第三の選択肢を持ち込んできた。一見、冷たく厳しい行動だが、それこそが最終的には相手のために繋がっていく。まさにこれまでの本作にはなかった新たな友情の形で、もしかしたらこっちのほうがキン肉マンの言ってることより正しいのかもしれない。そう思うに十分な説得力と魅力を備えた考え方です。 おそらく当時のリアルタイム読者たちは幾分、困惑したのではないでしょうか。これまではキン肉マンだけが常に正しく、みんなどこまでも彼についていけばよかったのに、今は必ずしもそうではない。正解がふたつ同時に提供されているような不思議な感覚。 しかし、それこそが当時最終章として提示された「キン肉星王位争奪編」というシリーズならではの大きな意義であったとも思うんですよね。友情をテーマに物語を長く紡ぎ続けてきた結果、ここまで深いところにたどり着いた。そしてこの"真・友情パワー"の登場により『キン肉マン』の友情物語は子供時代の美しい思い出ストーリーという評価に留まらない、今でも立ち返るべき大人の鑑賞に耐えうる友情物語に昇華されていった、と言えるのではないかとも思うのです。