《北朝鮮の軍事力を徹底分析する》ミサイル開発に血道を上げるが、通常戦力は「骨董品のオンパレード」という事実
■ 総人口の3割も占める「戦時動員兵力」の無謀さ 韓国との戦力比較を別表に掲げたが、北朝鮮の正規軍総兵力は128万人で、インド、中国に次いで世界3位、韓国(50万人)の2倍以上である。 注目は「正規軍兵力+準軍隊+予備役」の戦時動員兵力で、約780万人に達し総人口の実に3割を占める。軍事の世界では、「経済活動を維持しつつ動員可能な兵力の限界は、一般的に総人口の1割程度」と言われる。韓国は約660万人、総人口の約13%なので、この法則に忠実なのが分かるだろう。 一方、人口が韓国の半分に過ぎない北朝鮮は、劣勢をカバーするために“根こそぎ動員”を余儀なくされている実態が浮かび上がる。予備役の大半は「労農赤衛隊」という民兵組織で、60歳までの兵役を終えた健常な男性のほぼ全員に加え、未婚女性も入隊が半ば義務化されているという。 ある軍事評論家は、「食糧事情の悪さや疲弊した経済を考えれば、練度や士気は相当低いと見ていい。定期訓練はあるが、銃の扱いどころか上官の号令どおりに隊列を組み行進することもままならないのではないか」と解説する。 北朝鮮軍は総兵力128万人のうち110万人、全体の9割超が陸軍という組織構造もいびつだ。“金王朝”存続のため、国内ににらみを利かす治安組織という側面もあるが、小銃で武装した歩兵を大勢抱える人海戦術を、21世紀になっても続けているようだ。 「近代兵器の不足をコストのかからない歩兵の大量動員でカバーする発想は、旧日本陸軍と酷似し、現代戦では通用しない」と、前出の軍事評論家は手厳しい。
■ いまだに現役で名を連ねる旧ソ連製戦車の威力は? 陸軍部隊の中でも特に目につくのが、特殊部隊の巨大さだ。9万人弱に上り、「特殊作戦軍」と呼ぶ独立組織まで編成するが、これほど大所帯の特殊部隊は他に類を見ない。 韓国軍の背後でテロ・ゲリラ活動を大々的に行う不正規戦が主任務で、要人の暗殺・誘拐も得意とするなど、韓国軍にとって手ごわい相手である。近代装備に勝る韓国軍には、「核兵器」「特殊部隊」の二枚看板で対抗する、というのが北朝鮮軍の基本戦略と言える。 主要装備に目をやると、大半が半世紀以上前の代物で、某ミリタリー雑誌記者は「軍全体が“動く軍事博物館”だ」と皮肉る。 主役の戦車を見ると、総数は3500台で韓国の2100台を大きく上回るが、中身は旧ソ連製のオンパレードで、第2次大戦時に活躍したT-34がいまだに現役で名を連ねる。同車はナチス・ドイツ軍の名戦車、パンターやティーガーと戦火を交えた傑作車で、こんなビンテージカーを戦力として重宝している国は他にないだろう。 他にも、1950年代に開発のT-54/55や、同車の中国ライセンス生産版の59式、1960年代に量産を始めたT-62など“骨董品級”が揃っている。旧式車両が多いと保守・点検に「手間・ヒマ・コスト」がかかる反面、稼働率は下がるためかなり非効率。加えて一定台数は「部品取り」に回されるため、実際に動く戦車は相当少ないのではと見られている。 しかも国連の経済制裁と外貨不足で、燃料の調達にも苦労しているようで、必然的に戦車の操縦訓練も割愛せざるを得ないという。もちろん、現代の戦車戦では必須な、照準や射撃などで使用する先端の電子装置が完備されているとも思えない。 何とか現代戦で通用するのは、旧ソ連製のT-72くらいで、それでもデビューから半世紀以上たつ旧式戦車である。ちなみに同車の改造型がウクライナ戦争で多数使用されている。 この他、T-72を基に北朝鮮が開発した「千馬(チョンマ)」や、アメリカのM1の“完全コピー戦車”が軍事パレードなどに登場しているらしいが、詳細は全く不明で、量産されている様子もない。前出のミリタリー雑誌記者は、「パレードなどで引き回されるだけの“山車”のような存在で、単なるハッタリではないか」と分析する。 一方、2万門超という砲兵戦力は圧倒的で、韓国軍のほぼ2倍に達する。大砲(榴弾砲)や迫撃砲、多連装ロケット・システム(MRL)の合計だが、特にMRLの数が5500基と驚異的である。 韓国に攻め込む際、まず韓国の総人口の半分、2600万人がひしめくソウル首都圏に集中砲撃を加え、パニックを起こさせるつもりなのだろうか。砲兵部隊の強化にはことさら熱心だ。