エースを狙う! 達人藤田さいきが歴代最多7度目のホールインワン
もはや達人の域と言える。女子ゴルフの藤田さいき(38)が4月6日、富士フイルム・スタジオアリス女子オープン(埼玉・石坂GC)の第2ラウンドで自身通算7度目のホールインワンを達成。歴代単独最多記録となった。パー3でナイスオンの第1打がそのままカップインするホールインワン。「エース」とも言われ、偶発的で幸運を伴うイメージが強い。藤田は「狙ってできるものではない」と謙遜するように言いつつ、ホールインワンへの強い意識も隠さない。だからこそ、さらなる記録更新に意欲満々だ。名人芸を持つベテランのショートホールから目が離せない。(時事通信社 小松泰樹、岩尾哲大) 【写真】2022年のフジサンケイ・レディース第1日に17番でホールインワンを達成し、笑顔の藤田さいき ◆予感は「何となく、ぞわぞわ」 快挙の瞬間は13番(150ヤード、パー3)で訪れた。満開の桜が背景になるティーイングエリアから8番アイアンで放ったショットが、きれいな弧を描いてピンの手前1メートルにオン。藤田によれば、「ポン、ポン、ツー」とカップに吸い込まれた。 「完璧。すごくいい感じだったから、入ってほしいなと。着弾した時はもう、お願い、入って! でしたね」。興奮を隠せない様子だった。過去の経験を踏まえ、もしかするとエース、との予感はあるという。「何となくちょっと、ぞわぞわする。(球が)飛んでいる雰囲気で。今回もそれがあった」 ◆名物ホールで「正夢」 藤田はツアー通算6勝。ホールインワンは2007年の日本女子オープンで初めて記録した。そこから計ったように、きっちりと「3年スパン」で積み重ね、22年4月22日、フジサンケイ・レディース(静岡・川奈ホテルGC富士)の第1ラウンドで最多タイの6度目に到達した。 風光明媚(めいび)な名門コースの中で、名物ホールとして知られる17番(172ヤード、パー3)。相模湾を背に6番アイアンを振り抜き、砲台グリーンのカップに放り込んだ。「ここの17番でいつか決めてみたいと、思い描いていました。入る夢を見たこともあります」。正夢のようなスーパーショットに、満面の笑みだった。 その時点で過去にホールインワンを6度記録していたのは今堀りつ、高村博美、塩谷育代、金万寿(韓国)、城戸富貴。「すごい先輩方の横に並べさせていただき光栄です」と喜んだ。約1年後、23年4月15日に有村智恵がKKT杯バンテリン・レディースオープンで6度目のホールインワン。これで7人が最多に並び、さらに約1年後の今回、藤田が頭一つ抜け出た。「歴代(単独)1位になることを夢見て頑張っていた。めちゃくちゃ意識していた」 ◆「ライバル」有村も負けず劣らず 今はツアーを休養中で、このほど双子を出産した36歳の有村も藤田に負けず劣らずだ。通算14勝の実力者。優勝した11年7月のスタンレー・レディースでは、同じ日(第1ラウンド)にパーより3打も少ないアルバトロス、そしてホールインワンの両方を達成するという離れ業をやってのけた。 ロングホール(パー5)で2オンに成功した第2打がカップに入るというレアケースのアルバトロス。それ自体めったに見られないが、有村は09年のフジサンケイ・レディースでも記録しており、複数達成者は現時点で他にいない。いずれまた「ライバル」としてホールインワンの最多記録に挑むだろう。藤田と同様、常にエースを狙っていきそうな存在だ。 ◆11年ぶりのツアー優勝も 藤田に戻る。22年に6度目のエースを決めた時に、こんなことを言った。「3年周期で来ているから次の25年に期待して、それを楽しみにまた3年頑張りたい」。ところが、7度目はそれから約2年。ペースが1年も早くなった。 6度目を記録したシーズンは、キャリアの流れがグッと上向いた。終盤の11月20日、大王製紙エリエール・レディースオープンで実に11年35日ぶりのツアー優勝。その約1カ月前に金田久美子が11年189日ぶりの通算2勝目を挙げ、ツアーで最も長い期間を挟んだ勝利となった。藤田はそれに次ぐブランク優勝。大きな自信をつかんだ。 ◆若手を励ます良き先輩 激しい競争世界にあって、藤田は若手プロを優しく励ましている。もちろん本人はそれを口にしないが、温かい言葉をもらった選手が感謝の念を込めて話す。今季から米ツアーを主戦場にしている西郷真央は、ツアー初勝利を挙げた22年の開幕戦、ダイキン・オーキッド・レディースの優勝記者会見で、藤田に何度か勇気づけられたことを明かした。 コロナ下で統合された20~21年シーズン、西郷は21年6月の宮里藍サントリー・レディースオープンでの1打差2位に始まり、日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯や日本女子オープンを含め2位が計7度に及んだ。初優勝にあと一歩という試合が続き、もどかしさも感じていた頃、声をかけられたという。 「クラブハウスに戻って、私がちょっと落ち込んでいた時、帰りの片付けをしていた藤田さんが『お疲れ。もう少しだから大丈夫だよ。勝てるから』と。大先輩がそう言ってくださり、すごく励みになりました」。西郷は22年、開幕から10戦5勝と大ブレークした。 ◆8度目以降へ、モチベーションを上げる 年齢を重ねつつも、ホールインワンの間隔を縮めた藤田。だから、「8度目」以降に向けても闘志を燃やす。「歴代1位ではいきたいので、抜かれないように頑張る。リードを広げるために、またモチベーションを上げていきたい」と言葉に力を込める。 やがて有村も追ってくるだろう。20代前半~半ばのパワフルな勢力が女子ゴルフ界を活気づけている中、円熟味のあるベテランも負けていない。積み重ねた経験値と技術で、いぶし銀の存在感を示していく。