「ここは危険です」「何も言わずに車に乗って」…ロシアに追われ、ウクライナにも拒絶された女性ジャーナリストの「決死の逃避行」
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第23回 『まるで「007」…凄腕のイギリス人エージェントが“ロシアのお尋ね者”を連れて数々の検問を突破した「華麗なる手口」』より続く
体を休める暇もなく
夜遅くキシナウのホテルに着いた。ニックは電話で、わたしのドイツへの避難経路について話し合っていた。 ひどく疲れていたので、部屋に行きスーツケースの整理を始めた。ドアを叩く音がした。ニックが駆け込んできて叫んだ。 「ただちに出ましょう」 「どうしたの? どこへ?」 「ルーマニアです。不要な質問はしないでください」 急いで荷物をスーツケースに戻した。ニックはスーツケースをつかむと階段を駆け下りた。慌てて最後まで閉め切れなかったスーツケースのジッパーからヘアスプレー缶が大きな音を立てて落ち、階段を転がった。清掃員の女性が驚いたようにわたしたちを見た。
焦りが失言を招く
わたしが飛び乗ると、クルマは発進した。 「いったいどうしたって言うの? 説明してよ。なんでこんなに慌てているの?」 「ここは危険です。わたしたちセキュリティアドバイザーが、あなたをなるべく早くドイツに送り出すことを決めました。2時間後にあなたの乗る飛行機がルーマニアの空港を離陸します。チケットはすでに購入済みです。あなたを空港まで送っていきますが、わたしはポーランドに行きます。クルマを返さなければならないんです」 憑かれたようにわたしたちは空港へと走った。道中での唯一の障害はモルドヴァとルーマニアとの国境だった。 「通してください、お願いします」 わたしはルーマニアの国境警備兵に懇願した。 「飛行機に乗り遅れてしまいます」 国境警備兵たちは冷淡な眼差しをこちらへ向けた。 わたしたちの他、急いでいる人は誰もいなかった。 「あんなことは言わないほうがよかったですね。今度はわざと時間をかけておれたちをチェックしますよ」 ニックが忌々しそうに言った。 それでも20分後、わたしたちは書類を返してもらった。何の奇跡のおかげか、わたしはギリギリでベルリン行きの便に間に合った。 『「ロシアの英雄」が一転、孤立無援に…海外へ亡命した女性ジャーナリストを徐々に蝕んだロシア政府の「恐ろしすぎる手口」とは』へ続く
マリーナ・オフシャンニコワ
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