楽しむのにパワーは必要か? 100馬力以下の名機 5選 速さにこだわらない「本質」とは
スマート・ロードスター
わたしの妹はカーデザイナーのゴードン・マレー氏を知らないが、彼との共通点が1つある。2人ともスマート・ロードスターを所有しているということだ。そして2人とも、その欠点を認めながらも愛している。 スマート・ロードスターは、ほとんど完璧なミニチュア・スポーツカーであり、おそらく21世紀においてオースティン・ヒーレーの「フロッグアイ」スプライトに限りなく近い。ゴードン・マレー氏は、スプライトのオーナーでもある。 わずか82psの3気筒ターボエンジンを搭載するこのモデルには、ノッチバックのシンプルなロードスターと、マレー氏(と我が妹)のようなロードスター・クーペの2つのバージョンが存在する。後者は815kgと重めだが、それでも1トン当たりのパワーウェイトレシオは99psだ。 このクルマが楽しいのは、そのサイズにある。フェラーリはおろか、現行のポルシェ911でも維持できないようなスピードで田舎道を走ることができるだけでなく、実際のスピードよりもはるかに速いという印象を与える。そしてそれは、現代におけるとんでもないメリットになる。 雨漏りの可能性を除けば、ロードスターのアキレス腱は6速シーケンシャル・トランスミッションだ。ギクシャクして洗練性を欠くが、慣れればそれに合わせて運転でき、楽しさがイライラを上回る。 スマート・ロードスターは2003年から2006年までの3年間という短い生涯を閉じた。スマートが儲かることはなかったし、保証請求には多額の費用がかかった。もっと長生きして、欠点を直してもらいたかったクルマがあるとすれば、それはスマート・ロードスターだ。 古くなればなるほどその価値が増すような小さな宝石のようなクルマであり、欠点を無視したり、回避したりするのが簡単なクルマでもある。
ロータス6
2CVのような非力なクルマを運転すると、スムーズさとパワー・マネージメントが身につくので、より速く、より優れたドライバーになれるというのは知る人ぞ知る定説だ。その哲学を、こちらのロータス6に当てはめて考えてみよう。 1954年、ロータスのごく初期に製造されたこの6は、シンプルな乗り物の本質である。パワーユニットはいくつかあるが、今回用意した車両は最も一般的なフォード・プリフェクトE93aの1172ccサイドバルブを搭載。このエンジンは、アクアプレーン社による社外品シリンダーヘッドとツインキャブレターを備えており、おそらく40psを発生すると思われる。 ロータス6を運転するには、ABSやTCSといった運転支援システムに慣れた現代人にとっては、かなり集中力が要求される。3.5インチの細いリムの内側にあるドラムブレーキは油圧式ではなく、ケーブルで操作される。 トランスミッションはフォード製の3速で、1速にシンクロメッシュはない。長年にわたり、多くの人が純正のウォームローラー式ステアリングをより現代的なラックに交換してきた。今回の車両は純正状態で、かなり気難しいが、そもそもこのクルマの運転には熟考が必要であり、純粋な体験ができるのだから、そんなことは大した問題ではない。 このしなやかで小さなロータスは、狭い道ではジャガーXK120のドライバーを慌てさせたかもしれない。XK120はパワーこそあれど、ブレーキが弱く、路面追従性もわずかだ。 何はともあれ、1960年代のレーシングドライバーの多くは、このようなロータスのステアリングを握って見習い期間を過ごし、さまざまな教訓を学んだ。我々にとっても再訪する喜びがある。