伝統美に驚きと喜びを 博多人形の可能性に挑む西山陽一さん/福岡県太宰府市
博多人形師・國崎信正さんに師事し、4年後に独立する。写実的な作品や、伝統技法を用いた細やかな表現が評価され、受賞を重ねた。 江戸時代に始まったとされる博多人形。人形師はあらゆる分野の作品を手がけていたが、やがて着物姿の女性が主流になり、博多人形のイメージが定着していった。
百貨店の担当者の助言を受け、伝統の流れをくむ作品に向き合っていた西山さんだが、あまり売れないこともあったという。「決められた枠の中で表現しても、時代に追いつけない。新しいものに挑戦したい」と考えるようになっていく。
「見た人が笑顔になり、そばに置きたいと思ってもらえるものを作りたい」。何をテーマにし、どのように表現すればいいのか、自分の理想と重なる博多人形の姿を追い求め、模索する日々が続いた。
自分にしかできない表現を
西山さんの代表作の一つに「だるまるだ」と名付けたものがある。上下をひっくり返すと、だるまの怒った顔が柔和な笑顔に。置物として飾るだけでは面白くないと、だまし絵にヒントを得て、見て触って楽しめる博多人形の新しいカタチを表現した。
昨年暮れに福岡市内で開いた個展では、供え物にされる果物への感謝を表した「ありがた実」を披露。「これ本物?」「おいしそう」と注目され、来場者からは「博多人形でこういうものも作れるのですね」と感嘆の声が寄せられたという。 初めの頃は「こんなことで、みんな楽しんでくれるだろうか?」という迷いもあったそうだ。しかし「自分にしかできない表現、関心を持ってもらえる作品を」との思いを強く持ち、創作に打ち込んできた。
それを象徴する作品に、夢中で虫を追いかけた思い出から生まれた「アブラゼミ 夏の記憶…」がある。あまりのリアルさに展示会場で悲鳴を上げた人もいたという。粘土でどこまで表現できるのか試行錯誤し、粘土の特性を体で覚えることができた思い入れのある作品だ。
子どもの頃の楽しい体験や好きだったものをテーマに作ることが「自分にはぴったりくる」と西山さん。アイデア帳には次の構想をびっしり書き留めている。「博多人形でこんな表現もできるんだ!って、みんなを驚かせたい」と少年のように笑った。
読売新聞