農業核に地域守る「農村RMO」の形 〝先駆者〟島根・安来市の会社に学ぶ
島根県安来市の中山間地域、比田地区の住民が出資して設立させた(株)えーひだカンパニーは、農業や加工品販売だけでなく、生活用品の購買事業までを住民ぐるみで手がけ、地域に雇用や暮らしやすい環境をつくった。農水省が推進する農村型地域運営組織(農村RMO)の先駆的存在で、移住者の呼び込みにも結び付いている。
農家以外も参加 移住のきっかけにも
農家や自営業、サラリーマン、主婦と多様な人材が集まる同社は2016年に前身組織が始動した。高齢化や店舗撤退などが進み地区の存続が危ぶまれる中、「自分たちの手で住み続けられる地域をつくろう」と住民が結集。17年に住民出資の株式会社として動き出し、現在は72人が参加する。 主な事業は①草刈りなどの農作業受託や米、ソバ、小麦の生産と加工品の製造販売②直売所運営③移動販売車の運行──で構成。年間4700万円を売り上げる。住民は五つの部署に所属し、賃金を得る。自分の仕事の合間に事業に参加する住民も多い。 米やソバ、小麦は耕作放棄地や所有者が高齢で営農継続が難しくなった約6ヘクタールで栽培。自社工房でパンを作り、ラーメンや日本酒などを委託製造する。 地区内には、購買店舗まで車でも30分かかる人もいるため、移動販売車「ひだまり号」でサポートする。毎週、83世帯の玄関前まで出向き、総菜や生鮮品、日用品を販売する。 同社始動後、30代を中心に10組が移住。移住関連のイベントで同社を知り、「にぎやかな雰囲気がいい」「自分も働きたい」と移住を決めた人も多い。農家として農作業受託に参加したり、同社のイベント運営に携わったりする人もいる。 同社代表の川上義則さん(59)は「収入の確保や暮らしやすい環境は移住者が来る地域づくりにもつながる」と強調する。(大森基晶)
<ことば> 農村RMO
農水省は、中山間地域の複数集落をカバーし、農地保全や農業を軸とした経済活動、生活支援などを手がける組織と位置付ける。農家だけでなく自治会や社会福祉協議会なども参加し、地域ぐるみの運営を想定。農地の草刈りといった共同作業や高齢者支援など、集落機能の補完を狙う。