牛乳・乳製品輸出どう増やす 価格劣勢 付加価値が鍵 「濃厚さ」武器に売り込み
「北海道産」アピール
日本産牛乳のブランドや風味を落とさない殺菌方法といった技術を生かし、輸出拡大に取り組むメーカーも出てきた。コロナ禍を機に本格的に輸出に取り組み始めたよつ葉乳業(札幌市)は、「アジアで認知度の高い北海道を前面に押し出し、濃厚な味わいをアピールして市場を開拓していく」(海外事業グループ)と意気込む。 同社は現在、シンガポール、台湾、マレーシア、タイに牛乳やチーズなどを輸出。高所得者層を中心に需要をつかみ、23年度の輸出量は牛乳だけでコロナ前の19年度と比べ3・7倍まで増える見込みだ。 だが、価格競争力ではオーストラリアや欧州など他の主要輸出国に大きく劣る。同社によると、例えばシンガポールの場合、同社の飲用牛乳(1リットル)の小売店での販売価格は1本当たり6・8ドル程度で、他の日系企業も同程度。他方、オーストラリア産は同3・5ドル程度で、日本産の2分の1程度で手に入るという。 同社は「他の輸出先進国と同じ土俵ではなかなか戦えない」(同)とし、工場での殺菌温度を国内向けよりも高くするなどし飲用向けで日本からのパック輸送を実現するなど、高くても日本産を選んでもらえるような売り込みを進める。 輸出にはこの他、牛乳に含まれる成分の表示や工場の施設登録といった、輸出先国ごとの食品に関する規制への対応が求められる。イスラム教徒向けのハラールの認証取得や、現地のコールドチェーン(低温流通)整備の対応も進める。 <取材後記> 輸出好調は一見すると明るい話題だが、関係者への取材から、額面の動きだけでは分からない現実を知った。国内では需給緩和が長引き、離農が加速するなど酪農経営は厳しい。今回の取材では、輸出を増やせば全て解決するような単純な話ではないことも理解できた。 とはいえ、今後国内の食市場の縮小は避けられず、輸出の重要性は増す。将来にわたる酪農経営の安定へ、業界の結束力が一層問われると感じた。(松村直明)
日本農業新聞