<甲子園交流試合・2020センバツ32校>待ちわびた夏/下 履正社、「ノート」に心境つづり/大阪桐蔭、次のステージへ視線 /大阪
選手らが希望を託していた、夏の選手権大会の中止が発表されたのは、5月20日のことだった。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら 履正社の岡田龍生監督は、部員に「中止は仕方がない。これを機に、野球ができる普段のありがたさをかみ締めて今後の糧にしてほしい」と伝えたが、取材に「選手たちは納得してくれたと思いますが……。ただどう受け止めるかは分からない」と苦しい胸の内を明かした。 一方、「中止を覚悟していた」という大阪桐蔭の西谷浩一監督は「日本一を目指して親元を離れた生徒に厳しい練習をさせてきた。監督として無力感を感じる。生徒の気持ちが晴れることはないが、寄り添いながら前へ進みたい」と心境を語り、「生徒は卒業後も野球を続けるので、進路をきっちり決められるよう力を付けたい」と次のステージに視線を向けていた。 選手たちはどう受け止めたのか。履正社の部員が岡田監督とやり取りする「野球ノート」は、6月15日から再開された。そこには当時の心境が「先を考えられない」「悔しい」とつづられている。中止の一報を聞いた大阪桐蔭の藪井駿之裕主将(3年)は「頭が真っ白になった。本気で日本一を目指してきたのに、どうすればいいのか」と落胆した。しかしその直後、プロ志望の西野力矢選手(同)が高校野球では使わない木製バットを握り、黙々と練習を始めた。打撃練習パートナーの藪井主将が続く。やがてチーム全体に、卒業後の進路を見据えた練習の輪が広がった。 6月10日、選抜大会に出場予定だった32校が招待される「2020年甲子園交流試合」の開催が決まった。ただ、岡田監督は「彼らは既に2回ショックを受けている。本当に試合が開催されるか、懐疑的です」と慎重な姿勢を見せ、プロ志望者はプロへ向け、進学希望者は大学へ向けて、現実的な指導方針に切り替えた。西谷監督は「甲子園でただ試合をするだけでは意味がない。大阪桐蔭が大きく成長する場にしなければいけない」と意義を述べた。 両校は6月中旬から全体練習を再開し、対外試合で実戦感覚を磨いた。7月18日に府高校野球大会が開幕。雨天で日程が変更され、決勝なしで大会打ち切りとなった8月10日の準決勝で直接対決した。両者2桁安打の力戦は、履正社が9―3で大阪桐蔭に勝利した。 交流試合では、履正社が15日に星稜(石川)と、大阪桐蔭が17日に東海大相模(神奈川)と対戦する。履正社の関本勇輔主将(3年)は「大会が中止になった時は気持ちを切り替えるので精いっぱいだった。甲子園の土を踏めるのは本当にありがたい」と万感を込め、大阪桐蔭の藪井主将は「コロナがあっても『しっかりしていいチームだった』と言われるようにしたい。学んだことを全部出し切って、次の世代に大阪桐蔭を引き継ぎたい」と力を込める。3年生にとって、コロナに翻弄(ほんろう)されながらも地道に歩みを重ねて迎えた「最後の夏」が、夢の甲子園で始まろうとしている。【荻野公一、隈元悠太】